トップ RSS ログイン

東アジア域の大気・陸域・海洋水循環変動に伴う災害予測に関する研究

実施期間: 平成14年度−平成18年度
研究責任者: 松浦知徳
研究分担者: 飯塚 聡、中根和郎、筆保弘徳(現在:海洋研究開発機構)、
        黄 文峰(現在:農村工学研究所)、川村隆一(富山大学)、
        Yigin Noh(韓国 延世大学)、Jiang Tong(中国科学院 南京地理与
        湖泊研究所)、大場良二(三菱重工)
共同研究機関:タイ国王立灌漑局水管理所、南京地理与湖泊研究所

目的

 アジア域の水循環は気象・水災害や水資源問題と関連しており,それらの将来予測をすることは災害を未然に防ぐために必要である.防災科学技術研究所で開発した高解像度大気海洋結合モデル(50km分解能)と、新たに開発するアジア域の広域水収支モデル(10km分解能)と局所大気モデル(東アジア域10km分解能)を統合し、湿潤域である東アジアモンスーン域の長期水循環変動に伴う水災害の変動予測・評価を行うための統合モデルを構築する。構築した統合モデルにより、東アジアモンスーン域の長期水循環変動に伴う水資源、水災害変動の予測・評価を行う。

研究内容及び成果概要

 本研究では湿潤域としての東アジアの水災害をはじめとした水循環の長期予測をするための大気・陸域・海洋統合モデルの開発を行った。研究対象領域としては、既に防災科学技術研究所で気象・水文観測を実施してきたインドシナ半島のタイ国チャオプラヤ川流域および偏西風帯を通して日本に影響を与える中国長江を選択した。

 水循環数値モデルとしては、気候変動を予測するもでるとして防災科学技術研究所で開発してきた大気がT213(60km)解像度で海洋が0.5625°のグローバルな気候モデル(CGCM)を利用した。このモデルは海氷や河川流出の素過程は組み込まれていないが、エルニーニョ南方振動と台風のような総観規模の現象が同時に良く再現できるモデルである。

 また、10,000km2程度の流域に対して、土地利用の影響を実際にモデルに反映するためには10km程度の解像度が必要であることから、CGCMの結果を領域大気モデルMM5でダウンスケーリングした。その結果、地形変化に伴う雨の降り方や陸上での風分布の再現性が改善された。領域大気モデルの利用にあたって、最初の計画としてCGCMの気候変動(ENSOやインド洋ダイポールモードイベント)を長期の連続した計算の中で反映させる予定であったが、モデルの性能上短期間に改良できないと判断した。その結果、グローバルなモデルのシミュレーション結果に現れる特徴的なイベント期のダウンスケーリングを実施し、各事例の降水量変化等を比較するという方法をとることとした。

 広域水収支モデルに関しては、防災科学技術研究所で開発してきた50km解像度タンクモデルをさらに高解像度化し、10km解像度にした。特に、タイ国チャオプラヤ川流域の領域大気モデルとの連携では、月平均流出量変化に関しては良い再現性を得ることができた。しかしながら、日流出変化まで精度よくシミュレートするまでに到らなかった。広域水収支モデルの改良点としては、集中型タンクモデルを10km解像度分布型タンクモデルにし、ダムの影響を含めたシミュレーションが可能となったことである。さらに、統合モデルの利用価値として、長江からの洪水流出量の東シナ海、日本海への影響を高解像度海洋モデルとの連携によってシミュレーションすることが可能となった。

 今回の研究開発では気候変動を考慮した大気・陸域・海洋に対する完全に連結したシミュレーションを実行するまでには到らなかったが、大循環モデルから領域大気へのダウンスケーリング、領域大気−陸域、陸域−海洋の間の連携に関してうまくシミュレートできるようになった。

 タイ国チャオプラヤ川流域は162,800km2におよび、日本の最大の流域面積をもつ利根川の10倍程度の広さである。支川として、Ping川、Wang川、Yom川、Nan川、Khwae Noi 川の6河川があり、18°N以南は平坦で、ほとんど耕地/草地である。インドシナ半島の水循環の状況として、5月から10月までが雨季でベンガル湾からの南西季節風が強くなり、同時に半島の西岸と東岸の急峻な地形の風下で降水量が増加する。5月から月降水量が増え9月にピークに達する。南シナ海やフィリピン沿岸から西進してくる台風及び熱帯低気圧擾乱は7−8月からインドシナ半島の北側から南へと通過するようになり赤道により近い南部では上陸数は11月がピークとなる。それに対応して、チャオプラヤ川の河川流出高は16°Nあたりでは9−10月がピークとなる。これらの気候条件の下、チャオプラヤ川ではほぼ毎年洪水が発生しており、8月から10月が水位・流量上昇期で10月がピークとなりゆっくりと洪水発生が起こる。

 チャオプラヤ川の支川、クワエノイ川の長期気象・水文データを利用してチャオプラヤ全流域の10km解像度分布型タンクモデルを使った広域水収支シミュレーションを行った。日流出高と月流出高ともに客観解析データをインプットデータとして使ったシミュレーションでは再現性の良い結果を得た。

 インドシナ半島と長江下流から日本にかけて、大循環モデルの結果から領域大気モデルへのダウン・スケーリング手法の開発を手がけてきた。インドシナ半島に関しては東側にアンナン山脈等の地形の急峻な部分があり、10km以下の解像度でないとその効果を考慮することが出来ない。実際、チャオプラヤ流域のダウン・スケーリングにおいて、大循環モデルだけの粗い解像度に比べて、地上風や降雨の細かい分布等改良された。
具体的に、領域大気モデルを使って1998年の降水量を予測しその結果を10km解像度分布型タンクモデルのインプットデータとして河川流出量を算定した。月平均河川流出量に関してはダムが存在する場合においても算出可能となったが、日流出量に関しては領域大気モデルの降水量の精度向上がまだ必要である。

 中国の長江は四大文明の発祥の地の一つであり、文化の影響だけでなく気候・気象としても中緯度偏西風帯に位置しているため日本にも多大な影響を及ぼしている。特に、5月下旬から7月初旬の日本の梅雨期は長江流域上のメイユウと季節的な降水帯として連なっており日本の梅雨期の集中豪雨と関連が深い。

 長江では過去100年程度の間に、1935年、1954年、1998年と死者・行方不明者が数千人におよぶ大洪水に見舞われている。最も新しい、1998年の大洪水では1997年/1998年のENSOとの関連が指摘されており、これらの水災害と気候変動との関係解明、また将来温暖化したとき長江での洪水災害がどうなるのか注目されている課題である。

 我々は実態把握として過去50年程度の長江全流域の気象・水文観測データを解析した。気象・水文観測データから気候変動として季節内変動、経年変動、数十年変動、長期なトレンドと複数の気候変動が抽出された。特に、長期のトレンドとして降水量と河川流出量との間には強い相関があり、近年土地利用等のため自然的気候変動だけでは決定できない部分があるが、長江を上流、中流、下流と分けた場合上流に関しては大きな変化はないが中・下流では降水量と河川流出量共に増加の傾向がみられた。

 中国長江流域の広域水収支モデルとして全流域では広範すぎるため、観測データの揃っているその支流漢江に対する集中型モデルを作成し、1982年から1986年までの観測データを使いパラメータの同定を行った。それを使って、1987年から1992年までの流出シミュレーションをし、土地利用と流出誤差の相関を調べた。その結果、草原と広葉樹両者の割合が高い場合、流出予測がしやすく、耕作地と草地が混ざっている場合は流出予測が難しいことが明らかとなったさらに、昔から洪水の影響が大きいPoyang湖からGanjiang川流域(江西省)の集中型と分布型のタンクモデルの作成を実施した。この部分に関しては本プロジェクトの最終年度から始めたため現在も南京与湖泊研究所との共同研究を継続中である。

 サウジ・アラビアの洪水に対して東アジア域に対して開発した広域水収支モデルを適用した。現況の植生分布(ケースI)、雑木林を裸地に変えた場合(ケースII)、裸地を雑木林に変えた場合(ケースIII)の3ケースの植生改変実験の流出特性の変化を比較した。まず、ケースIとケースIIを比較した場合、流出量の立ち上がりが急で、ピークがより早く現れ、また振幅も大きい。これは雨の降った流域の保水性がケースIIの方が悪く、水分の集積が急に起こるためと判断される。降雨終了後、流出の移動はケースIIの方が速い。ケースIとケースIIIを比較するとケースIとケースIIの比較ほど顕著でないが、雑木林が多いほど保水性がよく流出曲線のピークはより減衰している。

 結論として、下流へ向かうに従い、流出曲線のピークが減衰する一般的な特徴が見られる。このような流出ピークの様子は、流域全体を砂漠にした場合急激になる一方で、全体を潅木にした場合には緩和される結果となっている。十分な観測結果もなく、また植生タイプを流域全域で変更することは非現実的であるために、モデルの結果の妥当性を検証することは極めて困難である。

 最後に、本研究開発で実施したタイ国チャオプラヤ川流域、中国長江流域、サウジのワジの3ヶ所に関して洪水期、気象・気候要因特性、実施した水循環モデリングをまとめた表を表7−1に示す。本プロジェクトから得られた今後の課題として、.哀蹇璽丱襪糞じモデルから領域モデルへの気候変動の影響の長期連続的なダウンスケーリングの手法の開発、⇔琉菎腟ぅ皀妊襪瞭降水量予測の精度向上、J布型タンクモデル利用のための観測及びそれを利用したパラメータ決定の手法の開発等が必要である。

最終成果報告書

東アジア成果報告書(402)