トップ RSS ログイン

2008年8月5日東京都豊島区付近の大雨(MPレーダ観測)

  • データの位置を修正しました。雨の値も少し変わっています(8月6日13:40)
  • 「MPレーダを用いたナウキャスト」の結果を加えました(8月6日15:30)
  • 「雲解像数値モデルCReSSによるシミュレーション結果」の結果を加えました(8月8日16:00)
  • 「降雨の時間変化」時刻のずれ(5分)を修正しました。(8月8日16:30)

概要

平成20年8月5日、局所的な大雨により、東京都豊島区雑司が谷で下水道内にいた作業員5名が流されるという災害が発生した。

防災科学技術研究所では、マルチパラメータレーダ(MPレーダ)を用いて、この時の雨の状況を5分間隔、500mメッシュで観測したので、その状況を速報する。

降雨の時間変化

東京都豊島区雑司が谷付近(139.71594E、35.717394N)における、MPレーダで観測された降雨強度の時間変化を示す。5日未明の雨は午前1時にはやみ、事故の起こる直前までは現場付近には降雨は観測されていない。

11:40頃に雨が降り始め、12:05には瞬間の降雨強度110.3mm/hに達している(*)。立ち上がりの早い、猛烈な雨が突然現場付近を襲ったものと思われる。

(*)瞬間の「強度」が110.3mm/hであり、12:0-12:05の5分間に降った量は9.2ミリ程度と推定される。

降雨分布の変動

以下にMPレーダで観測された5分おきの雨量分布の変動をアニメーションで示す。

「川口市」の文字の右下で発達する赤い領域が、今回の災害の原因となった豪雨である。現場の南側で発生した強い雨域が、北に移動した後、奇妙なことに豊島区〜台東区付近で停滞している。

積乱雲の急激な発達と、その停滞が豪雨の原因になったと思われる。

マルチパラメータレーダを用いたナウキャスト

マルチパラメータレーダを用いたナウキャストによる東京都周辺の時間雨量の予測結果を示す。小さな黒丸が下水道事故の発生地点(新聞報道によると11:40頃発生)である。11:40時点の予測では、集中豪雨の発生した地点周辺で30mm-50mm(オレンジ色)の1時間雨量が予測されている。12:00時点の予測結果をみると、50mm-80mm(ピンク色)の1時間雨量が予測されている。

雲解像モデルCReSSによる再現実験

防災科学技術研究所のスーパーコンピュターを用いて、
雲解像モデルCReSS(名古屋大学地球水循環研究センター開発)による
格子解像度1kmの数値実験を行い、9時(以後すべて日本標準時)から13時まで
の集中豪雨の再現を行った。

高度450mにおける降水域の時間変化(関東平野全体)

図は再現実験で再現された高度450mにおける、雨の強さを表す
レーダ反射強度(単位: dBZ)を10時から13時までの5分毎の
アニメーションとして示す。黒い四角は豪雨があった豊島区の位置を示す。
矢印は同じ高度の水平風の風向風速を示す。高度450m付近では、
主な気流として、南の海上から吹き込む風と九十九里海岸から吹き込む風と
鹿島灘からの吹き込む風の3つの風が東京の都心で収束している様子が
再現されている。主な降雨域は昼前までは、東京湾を囲むように
千葉県西部、東京都東部、神奈川県東部にみられ、風の収束域に対応している。

高度450mにおける降水域の時間変化(東京都付近)

図は再現実験で再現された高度450mにおける、雨の強さを表す
レーダ反射強度(単位: dBZ)を11時から12時までの5分毎の
アニメーションとして示す。
黒い四角は豪雨があった豊島区の位置を示す。矢印は同じ高度の水平風の
風向風速を示す。再現実験においても11時20分から豊島区の南で急激に
積乱雲が発達する様子を再現できた。東京湾を囲むように強い孤立した
降水セルが発達し、ゆっくり北上しながら、30分から1時間程度で衰退している。
衰退期の対流セルの周辺に新しい対流セルが発達することが確認できる。

高度1km付近における相対湿度の時間変化

図は再現実験で再現された高度962mにおける、相対湿度(単位%)の時間変化を
10時から12時5分までの5分毎のアニメーションとして示す。
矢印は同じ高度の水平風の風向風速を示す。黒い閉曲線は再現された反射強度
が25dBZ以上の雨域を示す。豪雨発生の約2時間前の10時から11時にかけて
高度1km付近でほとんどの地域で相対湿度85%以上の高湿な環境場であった。
豪雨が発生する直前の10時30分頃までに海岸付近では、相対湿度が95%に達して
おり、積乱雲が発達するために十分な水蒸気が存在していたことが推測される。
なお、時間が経つにつれ、相対湿度が全体的に下がるのは、日射による気温
上昇によると考えられ、水蒸気量が減少しているわけではない(図示せず)。

高度450mにおける温位の時間変化

図は再現された高度450mにおける温位の時間変化(10時から12時5分)を示す。
温位は指定気圧(1000hPa)に直したときの気温として定義される。
黒い閉曲線は再現された反射強度が25dBZ以上の雨域を示す。
豪雨が発生する前の10時30分頃までに東京湾を取り囲む関東平野で、
日射による加熱に起因する温位の上昇が見られた。10時30分頃から
温位が303Kを越えるような加熱がある場所で対流が発生している傾向が
見られる。なお、この陸上での温位上昇は、陸上における高度800m
以下でみられており、下層で大気の不安定化を引き起こしていたと考えられる。
なお、対流が発生している場所では、降雨による蒸発冷却が働き、
温位を減少させている。