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MPレーダネットワークによる雨と風の3次元分布推定手法の開発

1.概要

【背景】
国土交通省のXバンドMPレーダネットワークが有するポテンシャルの一つに、降雨と風の3次元分布情報の取得がある。これまで、Cバンドのレーダ降雨観測は広範囲を対象とした河川管理のために、低仰角の観測に限られていた。しかしながら、2008年の神戸の都賀川や東京都豊島区雑司が谷の局地的大雨の解析結果から、上空の雨の発達の監視は、局地的大雨の直前予測に有効であることが指摘されている。また、降雨と風の3次元情報を数値モデルにデータ同化することにより、局地的な大雨の数時間先の予測精度を向上させることも期待される。3次元分布情報は局地的な大雨の構造や発達のメカニズムを調べる上でも必要不可欠であり、その知見は豪雨の短時間予測に有益である。

【目的】
本研究は、MPレーダネットワークから雨と風の3次元分布をリアルタイムで求めるために必要な技術開発をおこなう。

【研究内容および期待される成果】
(1)ネットワークレーダ観測シミュレーター
 最適なレーダ観測モードの決定や各種のアルゴリズムの検証に利用できるネットワークレーダシミュレータを開発する。シミュレータは河川技術コンソーシアムへ提供可能なものとする。
(2)雨と風の3次元分布作成アルゴリズム
 リアルタイムで運用可能な雨と風の3次元分布推定アルゴリズムを開発しその精度を検証する。アルゴリズムは国交省MPレーダネットワークに実装可能なものとし、降雨の短時間予測の入力情報として利用可能。
(3)風水害等の発生予測に有効なパラメータの算出
 風水害の発生危険度の指標となる鉛直積算雨水量、流域面積雨量、実効雨量などの計算アルゴリズムを開発し検証する。アルゴリズムは国交省MPレーダネットワークに実装可能なものとし、内水氾濫や表層崩壊の危険度予測の入力情報として利用できる。

2.参加研究者

真木雅之 (防災科学技術研究所 観測・予測研究領域/水・土砂防災研究ユニット
前坂剛  (防災科学技術研究所 観測・予測研究領域/水・土砂防災研究ユニット
加藤敦  (防災科学技術研究所 観測・予測研究領域/水・土砂防災研究ユニット
清水慎吾 (防災科学技術研究所 観測・予測研究領域/水・土砂防災研究ユニット
平野洪賓 (防災科学技術研究所 観測・予測研究領域/水・土砂防災研究ユニット
D.-S. Kim(防災科学技術研究所 観測・予測研究領域/水・土砂防災研究ユニット
PC.Shakti(防災科学技術研究所 観測・予測研究領域/水・土砂防災研究ユニット
D.-I. Lee(釜慶国立大学教授)
V.N. Bringi (コロラド州立大教授)
濱田祐子 (防災科学技術研究所 観測・予測研究領域/水・土砂防災研究ユニット

3.研究課題

課題1.ネットワークレーダ観測シミュレーター
 複数台のMPレーダから雨と風の3次元分布情報を求めるための最適なボリュームスキャンモードを検討する。このために、ネットワークレーダ観測シミュレーターを開発する。具体的には、アンテナスキャンモード決定、降雨モデルの設定、レーダ観測シミュレーション、レーダデータ合成の計4つのプログラム開発をおこなう。

課題2.雨と風の3次元分布作成アルゴリズム
降雨量推定アルゴリズムの高度化
 降雨強度の3次元分布を求める降雨強度推定式や減衰補正式は、雨滴の形状、アンテナ観測仰角、温度に依存する。本研究では、Tマトリックス法による散乱シミュレーションをおこない、これらの要素を考慮した降雨量推定アルゴリズムと降雨減衰補正式を開発する。
雨の3次元分布情報
 複数台のMPレーダのボリュームスキャンから求められる降雨強度から、鉛直方向が500m〜1km、水平方向が500mの分解能の3次元合成雨量分布を5分毎に求めるプログラムを開発する。プログラムの作成にあたっては、複数台の雨量情報間の整合性やリアルタイムでの情報提供を考慮した内そう方法を採用する。
風の3次元分布情報
 複数台のMPレーダのボリュームスキャンから求められるドップラー速度から、鉛直方向が500m〜1km、水平方向が500mの分解能の3次元風向・風速分布を5分毎に求めるプログラムを開発する。複数台のドップラー速度から風ベクトルを計算するアルゴリズムの作成にあたっては、自動ドップラー速度折り返し補正やリアルタイムでの情報提供を考慮した方法を採用する。

課題3.風水害等の発生予測に有効なパラメータの算出
鉛直積算雨水量
 急激に発達する積乱雲や降雹の直前予測に有効なパラメータと言われている鉛直積算雨水量は、従来、反射因子から計算されていた。本研究では、より高精度の推定が可能な、偏波レーダパラメータを用いた計算式を提案する。
流域面積雨量
 流域や下水道区域を対象として、面積偏波間位相差法に基づく雨量計算方法を提案する。この方法は、比偏波間位相差を計算する必要がないために、後方散乱位相差の影響を受けにくい方法であり、より高精度で面積雨量を求めることが可能な方法である。
実効雨量
 表層崩壊の危険度の指標の一つとして使われている実効雨量は、従来、反射因子から計算されていた。本研究では、より高精度の推定が可能な、偏波レーダパラメータを用いた計算式を提案する。

4.研究成果
・Hirano, K. and M. Maki, 2010, Method of VIL calculation for X-band polarimetric radar and potential of VIL for nowcasting of localized severe rainfall -Case study of the Zoshigaya downpour, 5 August 2008-, SOLA, 6, 89-92.

・Hirano, K., M. Maki, A. Kato, T. Maesaka, D.-S. Kim, and K. Kieda, 2010, VIL of a Very Short Term Severe Rainfall on 5 August 2008 Derived from X-band Polarimetric Radar Measurements, Proc. 6th European Conf. on Radar in Meteorol. Hydrol., 177-183.

・Kim, D.-S., M. Maki and D.-I. Lee, 2010, Retrieval of Three-Dimensional Raindrop Size Distribution Using X-Band Polarimetric Radar Data. J. Atmos. Oceanic Technol, 27, 1265-1285.

・Kim D.-S., M. Maki, and D.-I. Lee, S. Shimizu, T. Mesaka, K. Iwanami, R. Misumi, and M. Jang, 2010, Retrieval of 3-Dimensional Raindrop Size Distribution using X-band Polarimetric Radar Data, Proc. 6th European Conf. on Radar in Meteorol, Hydrol., 116-124.

・真木雅之・前坂剛・加藤敦・清水慎吾・Kim Dong-Soon・岩波越,2010,マルチパラメータレーダネットワーク合成雨量,日本気象学会2010年度秋季大会講演予稿集
・真木雅之・金東順・清水慎吾・前坂剛・加藤敦・平野洪賓・PC Shakti, Dong-In Lee,平成22年度外部資金による中間報告会

・M. Maki, T. Maesaka and A. Kato. S. Shimizu, D.-S. Kim, K. Iwanami, S. Tsuchiya, T. Kato, Y. Kikumori, K.Kieda, 2010, X-band Polarimetric Radar Networks in Urban, Proc. 6th European Conf. Radar in Meteorol. Hydrol., 203-206.