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X-NET:首都圏Xバンドレーダネットワーク

概要

高度に発達した交通網や通信網を有し、数百万の人が生活する大都市には、集中豪雨、落雷、突風などの局地的な気象擾乱に対する脆弱性が内在しています。例えば、アスファルト舗装の道路や密集したコンクリート建物のために、局地的な豪雨があると雨水が一気に下水道へ流れ込みます。排水処理機能がこれに追いつかない場合には雨水が下水道からあふれ出し、道路や鉄道の冠水、繁華街や地下街での浸水による被害が発生します。また、都市への人口集中に伴い丘陵や山麓に開発された住宅地は、局地的な豪雨による土砂災害の危険をはらんでいます。落雷や竜巻等の突風による通信施設や電力施設への被害は、都市機能を麻痺させ、都市経済や人間生活に多大な被害をもたらします。
このような、都市特有の環境が素因として特徴づけられる災害(都市型災害と呼ぶことにします)の監視技術と予測手法を開発するために、防災科学技術研究所では他の研究機関や大学と連携して、Xバンド気象レーダネットワーク(X-NET)の構築を進めています。X-NETは、防災科学技術研究所、中央大学、防衛大学校、気象協会、電力中央研究所、気象研究所などの研究用レーダをネットワークで結び、観測から得られる降雨と風に関する情報をリアルタイムで配信しようとするものです。X-NETは新しい都市防災システムとして位置付けられ、その特徴としては、(1) 都市の優れた通信インフラを活かしたネットワーク、(2) 既存の研究施設の利用による即効性と経済性、(3) 3000万人の住民が生活する首都圏が試験地、(4) エンドユーザ(研究者,地方公共団体防災担当者,民間気象関連会社など)とのやりとりを通じた検証、が挙げられます。
各研究機関および大学でのX-NETの構築に向けた準備を経て、2007年には防災科研,中央大,防衛大学校の計3台のレーダによるリアルタイム観測が開始されました。2008年と2009年には5台〜7台のレーダネットワーク化を計画しています。X-NETの観測データの有効利用については大学や研究機関の研究者、地方公共団体の防災担当者などを委員とする「次世代気象災害監視レーダネットワーク(X-NET)の構築と利用に関する検討委員会」(防災科学技術研究所内)で議論していきます。

背景

都市型災害をひきおこす気象擾乱の発生や発達を監視するには気象レーダが有効な観測機器です。国土交通省では、Cバンド(5cm)波長の気象レーダを40台余りを日本全国に展開して、豪雨の監視や河川管理に利用しています。このレーダネットワークは日本全国を対象にできるだけ均質な雨量情報を提供できるように設計されているために、必ずしも都市型災害の監視に最適なものとは言えません。Cバンド波長のレーダは半径200km程度の探知能力がありますが、地球の曲率のために遠方では地表付近の大気を観測できないという問題も指摘されています。
Cバンド波長のレーダに対して、Xバンド(3cm)波長のレーダは、観測範囲は限られますが、装置を小型化できるため、設置が容易である、比較的安価である等の利点があります。従来、Xバンド波長は降雨減衰のために定量的な降雨観測には不向きとされていましたが、マルチパラメータレーダ(以降,MPレーダと呼びます)が実用化され、その評価は180°代わってきました。すなわち、MPレーダ観測から得られる偏波間位相差情報を用いることにより、高精度の降雨量推定が可能となってきたのです(例えば, Matrosov et al. 2002, Matrosov et al. 2005, Anagnostou et al 2004, Park et al. 2005, Maki et al. 2006)。更に、近年の高速情報通信網や高い処理機能を持った計算機を安価に利用できるようになり、レーダネットワークの膨大なレーダデータをリアルタイムで処理することも可能になってきました(Maki et al, 2001)。
X-NETは上に述べたような背景のもとで計画されました(真木、2005)。そして、防災科学技術研究所の研究プロジェクト「MPレーダを用いた土砂災害・風水害の発生予測に関する研究(2006年〜2010年)」や科学技術振興調整費「竜巻等による突風災害対策に関する調査研究(研究代表者:東京工芸大学田村幸雄、2007年)」と連動して進められています。
2007年にはワークショップ「CASA- NIED Joint Workshop on Japan X-NET System」 が2007年10月4日に東京で、続いて、10月5日につくばにおいて、国際シンポジウム「International Symposium on X-band Weather Radar Network − Challenge the Severe Storms −」が開催されました。

目的

X-NETの目的は局地気象擾乱の発達の理解やその予測精度の向上、都市型災害の警報システムの開発に役立てるための高精度で高空間分解能の降水と風の情報をエンドユーザに提供することです。そのための研究テーマや確立すべき技術としては次のものがあります。
 ・首都圏上空の雨と風の3次元分布(時間分解能5分,空間分解能 数100m〜500m)の瞬時集約と配信
 ・上記の情報に基づく豪雨域,強風域の検出と監視
 ・外そう法による降水ナウキャスト,およびデータ同化した雲解像数値モデルによる降水短時間予測
 ・局地気象擾乱の構造,発生過程,発生機構の理解
 ・豪雨災害や強風災害の発生予測手法の高度化のためのデータベースの作成
 ・気象学,防災研究,気象教育,建築,都市,交通,電力,通信,情報,レジャー産業などの様々な分野における基礎的な気象データベースの作成