国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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ホールパンチ雲:Bergeron-Findeisen理論の可視化

2004年10月18日の夕刻、絹積雲に丸い穴のあいた雲が出現し、つくば市民をびっくりさせました。このような丸い穴のあいた雲に正式名称は無いのですが、「ホールパンチ雲(hole punch cloud)」または「穴あき雲」などと呼ばれています。

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ではなぜこのような丸い穴があくのでしょうか?その理由は、水滴と氷の「飽和蒸気圧」の違いにあります。

写真をよく見て下さい。丸い穴の中央付近に、刷毛で掃いたようなボヤッとした雲があります。これは氷の粒が落下している様子を示しています。一方、うろこ状の周囲の雲(絹積雲)は上昇流によってつくられたもので、過冷却状態にある水滴と考えられます。

氷の方が水滴より飽和蒸気圧が小さいので、周囲の水蒸気はどんどん氷に取り込まれていきます。こうして水蒸気が不足し、水滴の方は蒸発してしまい、丸い穴があくというわけです。言わば、氷が一種の「乾燥剤」の役割をして、雲を消したと考えられます。

このように、水滴と氷が共存するとき、水滴が蒸発して水蒸気を供給し、氷の方は周囲の水蒸気を取り込んで成長し、やがて落下しながら融けて雨となることを、その提唱者の名前からBergeron-Findeisen理論と呼んでいます(後に大陸移動説で有名なWegenerが同じ説を提唱していたことがわかり、Wegener-Bergeron-Findeisenの説とも呼ばれています)。

ホールパンチ雲はまさにBergeron-Findeisen理論が可視化されたものです。この写真は気象教育の良い教材になると思います(必要な方はご自由にお使い下さい)。

その後も注意して雲を見ていますが、下の写真のように、飛行機雲に沿って雲に細い隙間が空くことはあっても、丸い穴が空く場面には遭遇しません。「氷と水滴の共存」の他に、ホールパンチ雲の形成には何か必要条件があるものと思われます。

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飛行機雲の氷晶によってできた、雲の隙間(2004年12月24日撮影)

参考