国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2020年7月3日〜4日南九州における大雨について(速報)

更新履歴


連絡先 

  • 水・土砂防災研究部門 三隅,前坂(気象レーダー解析)

本サイトの短縮URL → http://mizu.bosai.go.jp/key/R2_0704Gouu

概要

2020年7月3日から4日にかけて九州南部に大雨が降り、4日4時50分に熊本県と鹿児島県に大雨特別警報が発表されました。以下は大雨の特徴をまとめたものです。

なお降水量の「再現期間」は、「大雨の稀さ(まれさ)情報(何年に一度の大雨?)」として、クライシスレスポンスサイトでリアルタイム公開しています。
http://crs.bosai.go.jp/DynamicCRS/index.html?appid=73a7e04b17f84c2d9eda069cd528026c

 九州南部に大雨をもたらした降水システムの立体構造

令和2年7月3日から4日にかけて九州南部に大雨をもたらした雨雲について、気象庁レーダ(福岡・種子島・広島)の3次元データを用いて解析しました。東シナ海から九州にかけて東西に伸びた降水域は、25dBZ(降雨強度1mm/時)でみると高度約15kmまで発達していました。下図は、4日の4時20分におけるレーダエコーの3次元分布です。芦北町付近に存在する積乱雲は高度14km程度まで発達していました。また、図7と同様に、東西に伸びた降水域内部には、積乱雲とみられるレーダ反射強度の大きい領域(40dBZ以上(橙色・赤色))が複数連なって積乱雲群を形成し、海上から次々と熊本県に上陸したことがわかりました(動画を参照ください)。被害の大きかった芦北町付近では、解析した4日0時から9時の期間に、積乱雲が何度も通過しました。
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図の説明:気象庁Cバンドレーダを合成したレーダ反射因子(降水の強さ)の3次元分布。九州南部の上空から見た様子。白・青・橙・赤色の等値面はそれぞれ25dBZ, 35dBZ, 43dBZ, 45dBZのレーダ反射因子で、降雨強度1mm/時、6mm/時、17.8mm/時、24mm/時に対応します。図中の矢印は高さを示すスケールであり、1メモリは1kmを表し、高度15kmまで示しています。黄色のピンは芦北町、赤色のピンは人吉市の位置を示しています。地図情報は国土地理院地図(色別標高図)を利用しました。動画(約45MB)はこちら

 九州地方の降雨強度・積算雨量(7月3日09時〜8日09時)

2020年7月3日09時から8日09時(日本標準時)までの、気象レーダーデータ(国土交通省XRAIN)を用いて解析した降雨強度と3日09時からの積算雨量の分布を Youtube にアップロードしました。

「九州地方の降雨強度・積算雨量(7月3日09時〜8日09時)」
https://www.youtube.com/watch?v=4qKggCoiwH8

この期間中、大隅地方、球磨川流域、筑後川流域でレーダー雨量720 mmを越える降雨が解析されました。また、積算雨量の大きな領域の多くは南西から北東の走向を持つ線状に分布しており、これらの降雨の多くは線状降水帯によりもたらされました。

 気象レーダー解析による降雨帯の微細構造

国土交通省XRAINの降雨強度データを用いて、今回の大雨をもたらした降雨帯の微細構造を解析しました。図6は2020年7月3日22時から4日10時(以下、時刻はすべて日本標準時)までの12時間積算雨量を示しています。この降雨帯は地上天気図に解析された梅雨前線の南側に位置し、およそ60 km程度の南北幅で、ほぼ東西方向に、東シナ海から宮崎県まで伸びていました。その降雨帯の中でも、芦北および球磨地方を中心に250 mmを越える積算降水量が解析されました.

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図6.国土交通省XRAINの降雨強度データを用いて解析した、2020年7月3日22時から4日10時(日本標準時)までの12時間積算雨量の分布。

この期間中の降雨強度・積算雨量のアニメーション(下記のリンク先をご覧ください)を見ると、4日の02時ごろまで、降雨帯は少しずつ北上していましたが、その後、降雨帯は停滞し、降雨帯の南側では南西-北東の走向を持つ積乱雲列(線状降水帯)が多く見られました。

降雨強度・積算雨量のアニメーション(ファイルサイズ約54 MB)

降雨帯が芦北および球磨地方に停滞していた4日04時から05時までの1時間積算雨量を解析すると(図7上)、南北幅60 km程度の降雨帯の中に、南西-北東の走向を持つ線上のパターン(破線で示す)が見られます。この積算期間中である04:24の降雨強度の分布(図7下)を見ると、このパターンは、南西-北東の走向を持つ積乱雲列(線状降水帯)に対応していることが分かります。

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図7.国土交通省XRAINの降雨強度データを用いて解析した、2020年7月4日04:00から05:00(日本標準時)までの1時間積算雨量の分布(上図)と、2020年7月4日04:24の降雨強度(下図)の分布。図中の破線は上図における線上のパターンの位置を示し、下図の破線の位置は上図に同じである。

以上の解析から、芦北および球磨地方に大雨をもたらした東西に伸びる降雨帯の中に、南西-北東の走向を持つ線状降水帯が多く埋め込まれていることが分かりました。

 雲の分布と高さの時間変化

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図.静止気象衛星ひまわり8号により得られた、2020年7月3日15時から7月4日12時(日本標準時)まで30分ごとの赤外(バンド13)輝度温度(℃)の時間変化。
輝度温度(℃)は雲の上端における温度を示し、雲の高さの指標となります。

3日16時30分頃から鹿児島県の西の海上で背の高い雲(緑、-60℃以下)が発達し鹿児島県付近を通過します。
23時頃から熊本県(北緯32度)付近の西の海上で東西方向に伸びる線状の雲域が発達し、その後も次々に背の高い雲が発生し4日朝にかけて熊本県付近を通過しました。
最も背の高い部分(赤、約-75℃)は鹿児島の高層観測と比較すると高度約15.5kmであり、対流圏の上端に達していたと推定されます。

この背の高い雲の動きは「気象レーダー解析による降雨帯の微細構造」で示される強い降水域の移動、停滞と一致しています。
また、最も背の高い雲の高さは「九州南部に大雨をもたらした降水システムの立体構造」で示される降水粒子(25dBZ)の最大到達高度と同程度でした。

 対流圏下層の水蒸気流入の時間変化

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図8.気象庁局地モデルによる2020年7月3日23時(日本時)から7月4日11時(日本時)までの地表付近の風(矢羽根)と,空気1kgあたりの水蒸気の質量(カラー)の1時間毎のアニメーション。長い矢羽根は5 m/s、短い矢羽根は2.5 m/sの風速を示す。等値線は標高(500 m間隔)を示す。

九州南部西方の東シナ海で南西風と西風が合流する領域があり,その合流域で豪雨をもたらした積乱雲が発生していた。
合流する南西風は豪雨の起源となる大量の水蒸気を運んでいた。

 24時間降水量の「再現期間」

降水量の「再現期間」とは、観測された降水量が「何年に一度起こるのか」を統計的に計算した値です。
2020年7月4日8時の時点で、再現期間10年以上の範囲が熊本県南部に広がっており、とくに芦北町周辺では「50年〜100年に一度の大雨」が降ったと推定されます。
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図1.2020年7月4日8時における前24時間降水量の再現期間。防災科学技術研究所クライシスレスポンスサイトより。http://crs.bosai.go.jp/DynamicCRS/index.html?appid=73a7e04b17f84c2d9eda069cd528026c

 半減期1.5時間実効雨量の「再現期間」

半減期1.5時間実効量は、直近の降水量に重みをつけて積算した値で、浸水危険度の指標として使われています。2020年7月4日8時の時点で、芦北町周辺で「再現期間100年以上」の値が記録されており、短時間に集中して大雨が降ったことを示しています。
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図2.2020年7月4日8時における半減期1.5時間実効雨量の再現期間。防災科学技術研究所クライシスレスポンスサイトより。http://crs.bosai.go.jp/DynamicCRS/index.html?appid=73a7e04b17f84c2d9eda069cd528026c

 半減期72時間実効雨量の「再現期間」

土砂災害危険度の指標となる半減期72時間実効雨量の再現期間は、2020年7月4日8時の時点で、概ね「10年〜30年」であり、多いところで「30年〜50年」となっています。
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図3.2020年7月4日9時10分における半減期72時間実効雨量の再現期間。防災科学技術研究所クライシスレスポンスサイトより。http://crs.bosai.go.jp/DynamicCRS/index.html?appid=73a7e04b17f84c2d9eda069cd528026c

 外水氾濫のリスク

令和2年07月04日05時55分に球磨川の氾濫発生情報が発表されました。球磨川の洪水浸水想定区域は、中〜上流における川沿いの比較的狭い範囲と、八代平野の広い範囲にあります。
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図4.2020年7月4日8時における「外水リスク」。リアルタイム洪水・土砂災害リスク情報マップβ版より。https://sip4dkit-web.bosai.go.jp/riskmap/index.html

 内水氾濫のリスク

人口集中地区においては、人吉市と水俣市で内水氾濫リスクが非常に高まりました。
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図5.2020年7月4日8時における「内水リスク」。リアルタイム洪水・土砂災害リスク情報マップβ版より。https://sip4dkit-web.bosai.go.jp/riskmap/index.html