国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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北海道における大雨のメカニズム(平成28年台風10号)

更新履歴

  • 平成28年9月2日 初版

連絡先 

  • 水・土砂防災研究部門 清水・櫻井・加藤・下瀬・三隅
  • 広報課担当者 菊地・三好(029-863-7784)

 概要

平成28年台風第10号は、太平洋から岩手県大船渡市に上陸する経路をとり、各地に大きな被害をもたらしました。本ページでは、特に北海道で発生した大雨について気象レーダを用いた発生メカニズムに関する解析結果を報告します(速報につきデータや内容が更新・変更されることがあります)。

 北海道十勝日高周辺の大雨

気象庁メソスケールモデルによる地表付近の風

図1に気象庁メソスケールモデルによる地表付近の風ベクトル場と水蒸気混合比の時間変化を示します。日高山脈に台風が接近する約1日以上前から東風が継続的に吹き込んでいました。このため、山地で持ち上げられた空気に含まれる大量の水蒸気が凝結することで、多くの雨が長時間形成されたと考えられます。
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図1. 気象庁メソスケールモデルによる地表付近の風の場と水蒸気混合比の時間変化。2016年8月30日00時(日本時)から翌日の31日朝6時までの時間変化を示す。色で標高を示す。旗矢羽が25m/s、長矢羽根1つが5 m/s、短矢羽根1つが2.5 m/sの風速を示す。コンターは水蒸気混合比を示し,間隔は1 g/kg。

降水システムの立体構造

図2は、3台の気象庁レーダ(函館、札幌、釧路)を合成することで得られた、大雨をもたらした雨雲の立体構造を示しています。

大雨による浸水等の被害があった、南富良野町から日高・十勝地方では、日高山脈付近で継続的に活発な雨雲が形成されていました。台風の接近時には、台風に伴うレインバンドが日高・十勝地方を通過し、岩手県周辺の大雨のメカニズム(平成28年台風第10号)で説明したことと同様に、地形による強制上昇気流によって形成された雨雲の上空を、台風に伴うレインバンドが通過することで雨を強めるメカニズムが働いたと考えられます。

動画はこちら(95MB)

  • 8月30日16時30分のレーダ三次元画像

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図2A. 3台の気象庁レーダ(函館、札幌および釧路)を合成したレーダ反射強度の三次元分布を太平洋上空から見た様子。白・青・黄色・赤の等値面はそれぞれ25dBZ、30dBZ、35dBZ、40dBZのレーダ反射強度を示す。地図情報は国土地理院地図(色別標高図)を利用。黄色で表示された場所は、浸水被害が報告された南富良野町と大樹町の場所を示す。日高山脈付近では台風10号の接近前に地形性降雨が継続していた。

  • 8月30日17時30分のレーダ三次元画像

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図2B. 台風10号に伴う東西に延びるレインバンドが北海道に上陸した。このレインバンドの接近に伴い、地形性降雨が強化されている。

  • 8月30日18時30分のレーダ三次元画像

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図2C. 台風10号の中心に近いレインバンドが北海道に上陸した。このレインバンドの接近に伴い、日高山脈付近での対流活動が強化されている。

  • 8月30日20時00分のレーダ三次元画像

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図2D. 18時30分から20時にかけて、地形効果(強制上昇や雲への種まき効果)により、レインバンドに伴う降水が非常に強化された。20時から0時にかけて十勝地方の広い範囲で対流活動が最も活発となった。

  • 8月30日22時00分のレーダ三次元画像

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図2E. 22時に台風の中心が渡島半島付近を通過した。日高・十勝地方は、台風に伴うレインバンドによる降水が継続している。

  • 8月31日01時00分のレーダ三次元画像

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図2F. 台風の中心は北上を続け、日本海に抜けた。しかし、台風に吹き込む強い下層の東風が継続するため、十勝地方での地形性降水は4時ごろまで継続した。

雨雲の東西・鉛直断面図

日高・十勝地方の山岳域での対流の活動度の時間変化を示すために、北緯42度から44度にかけて反射強度の最大値を投影した東西・鉛直断面図を作成しました。東西方向では、日高・十勝地方に注目するために、東経142度から144度の範囲のみを図示しています。

図3A-Cはそれぞれ、8月30日09時から15時 (レインバンドの通過前)、8月30日15時から21時 (レインバンドの接近〜上陸)、8月30日21時から8月31日03時 (レインバンドの通過)の時刻での東西鉛直断面図を示しています。

(図3A)日高・十勝地方の山岳域では、台風に伴うレインバンドが上陸する前の、9時から15時かけて高度7km以上の雨雲に長時間覆われていました。

(図3B)18時頃から21時にかけて高度10kmに達する背の高い積乱雲が覆うとともに、高度4km以下で反射強度が大きくなり、強い降水がもたらされました。複数の降水帯が通過した20時から0時にかけて、積乱雲の背の高さ、および反射強度の値もピークに達しています。

(図3C)31日1時から2時にかけて積乱雲の活動は弱まったが、高度4km以下の降水は継続していました。

  • 台風に伴うレインバンドが通過する前

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図3A. 3台の気象庁レーダ(札幌、釧路および函館)に基づく、日高山脈上空を通過する雨雲のレーダ反射強度(北緯42°〜44°の最大値)。8月30日09時から15時の東西鉛直断面図

  • レインバンドの接近〜上陸

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図3B. 8月30日15時から21時の東西鉛直断面図

  • レインバンドの通過

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図3C. 8月30日21時から30日3時の東西鉛直断面図