更新履歴
2025年8月21日 初版
担当者
水・土砂防災研究部門 秋田 寛己、飯塚 聡
本サイトの短縮URL → https://mizu.bosai.go.jp/key/2025Kagoshima
令和7年8月大雨による土砂流出推定範囲と土砂・流木推定量 -鹿児島県姶良市・霧島市周辺
概要
令和7年8月の大雨で土砂災害のあった鹿児島県姶良市・霧島市周辺を対象に解析領域(A=897km2)を設定し、大雨前後の光学衛星データを用いて計算したNDVI(正規化植生指数)差分値から、土砂流出推定範囲を抽出しました。さらにその抽出値を使用し、崩壊地を生産源とする土砂・流木量(崩壊生産土砂量・発生流木量)の推定値を計算しました。
その結果、図1と図2と図3に示したように、姶良市・霧島市いずれも山間部に多くの土砂流出範囲が確認されました。他の災害資料や報道などを確認すると、姶良市蒲生町白男周辺で被災した建物には土砂とともに流木が多数堆積して被害を拡大している様子が見られます1)。
そこで、衛星データの空間分解能(10m)が粗く誤差の含まれる抽出結果ではありますが、解析領域内の土砂量を推定すると、約147万m3でした。さらに流木量を推定すると、約3万m3でした。両者を合算した土砂・流木推定量は、約150万m3であり、単位面積あたりに換算すると(除外範囲A=763km2の差し引き考慮)、約1.1万m3/km2になり、図4に示したように直近の土砂災害事例と比較して近似直線上側に位置し、量的に多い領域に入ることがわかりました。これは新規に発生した崩壊地の数が多かったことが影響していると考えられます。また、霧島市福山港では漁船が出られないほどの大量の流木が漂流しており2)、土砂・流木量を推定することで影響の大きさを認識できます。他の衛星データ解析の事例と比較すると(表)今回の推定値は、2022年9月の宮崎県北部・南部の土砂災害(約147万m3)と近い推定量だったといえます。
(抽出結果のポリゴン)
ダウンロード 1.zip(46)
1) 株式会社パスコ: 災害緊急撮影(https://corp.pasco.co.jp/disaster/heavy-rain/20250813.html)
2) MBC南日本放送Web: 海面が見えないほどの大量の流木とごみ(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mbc/2106065)
NDVI差分値を用いた土砂流出範囲の推定手法について
近年は斜面崩壊や土石流といった土砂移動現象による土砂災害が広域的に発生するケースが見られ、災害後の応急復旧のためにも土砂流出の発生場所とその範囲を把握することが必要です。このような応急対応に資する情報発信を目的とし、水・土砂防災研究部門では、土砂流出推定範囲を抽出する手法の開発に取り組んでいます。
以下の光学衛星データを使用し、NDVI差分値に閾値を定めて二値化画像を作成し、斜面傾斜角により土砂流出の推定範囲を抽出しました。
-使用した光学衛星データ-
Sentinel-2/MSI(分解能10m、L2A)
大雨前:2025年6月19日AM8:59(JST)撮影
大雨後:2025年8月15日AM8:59(JST)撮影
※GISアプリケーションは、ArcGIS Pro(ESRI)を使用。
図5に災害前後の光学衛星データから作成したNDVI差分画像を示します。解析領域は、稀な雨域 3) を広域にカバーするように設定しました。なお、使用した衛星データは分解能10mであるため、面積100m2(10m×10m)以下の変化は明瞭に捉えられません。
斜面崩壊や土石流などの土砂移動現象により裸地化した範囲はNDVI差分値が大きくなり、白色であらわれます。
3)水土砂防災研究部門 2025年8月7日からの大雨
次にNDVI差分値に閾値を定め、土砂流出の可能性のある範囲を抽出します。
閾値は0.20以上を適用し4)、土砂流出の可能性のある範囲を抽出しました。加えて、国土地理院10mDEM 5) を使用して解析領域での傾斜角を整理し、既存の調査結果など 6)7) から、斜面傾斜角15度以上を土砂流出推定範囲と判断しています。
4)秋田寛己(2025): 高頻度な中分解能光学衛星データを活用した土砂流出推定範囲の抽出と公開,砂防学会誌,78(2),33-38.
5)基盤地図情報(国土地理院)
6)砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説(国土技術政策総合研究所.2016)
7)土石流・流木対策指針解説等(林野庁森林整備部.2019)
土砂・流木量の推定値の計算手法について
崩壊地を生産源とする土砂量(崩壊生産土砂量)は、秋田(2025)8)の崩壊生産土砂量推定式を使用し、個々の土砂流出範囲の面積値から傾斜角・48h積算雨量(年平均雨量で基準化,霧島市牧之原アメダス観測所より)の2つをパラメータに計算しました。崩壊地からの発生流木量は、崩壊生産土砂量を入力値として、過去の流木災害事例をもとに統計的に構築した秋田ら(2025)9)の発生流木量推定式を使用し計算しました。
これら計算手法の詳細については、下記の引用文献をご参照ください。全文が見れない方は、著者にご連絡ください(akita@bosai.go.jp)。
8)秋田寛己(2025): 崩壊生産土砂量推定式のパラメータα値・γ値のモデル化ならびに推定式改良手法の提案,砂防学会誌,78(1),3-13.
9)秋田寛己,今泉文寿,中谷洋明,堤大三(2025): 過去40年程度の発生・流出流木量の経年的な変化傾向とその関連要因の分析,砂防学会誌,77(5),3-10.





