国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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秋田県仙北市田沢湖田沢,先達集落の斜面崩壊

調査日:2013年9月12,13日
調査者:若月 強中谷 剛三隅 良平,磯 敦雄,高橋 尚也

秋田県仙北市にある荷葉岳の南側斜面に斜面崩壊が発生して,崩土が流動化し仙北市田沢湖田沢の先達集落に押し寄せることにより,甚大な被害が発生した(図1,写真1-3).
崩壊の発生時刻は,8月9日午前11時30分から50分の間である.

図1 西側の崩壊が大きな被害を発生させた.
東側には表層崩壊(崩壊深1〜1.4 m,崩壊源の勾配31°,幅約13m,すべり面の凝灰岩のシュミット反発値11〜15)が発生している.
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写真1 崩壊地全景
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写真2 被害の様子1
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写真3 被害の様子2
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被害

死者6名,重傷者1名
住家 全壊5棟,半壊1棟

荷葉岳

荷葉岳は田沢湖の北東に位置する火山体であり,山体南側は約200万年前の先カルデラ成層火山噴出物(大黒溶岩,安山岩・玄武岩)が,鮮新統の玉川溶結凝灰岩(石英安山岩質)を覆っている(1/5万地質図「田沢湖」:小針,1974:須藤ほか,1989).

雨量

災害発生地の正確な雨量は明らかではないが,北西に約5km離れたアメダス「鎧畑」における1時間雨量と日雨量は,1977年以降の最大値を記録した.
最大1時間雨量:88mm(8/9 7:00-8:00),以前の最大値は64mm(1994/8/31)
最大日雨量:278mm(8/9),以前の最大値は244mm(2007/9/17)

降雨再現期間:
日雨量 278mmの再現期間は322年
1時間雨量 88mmの再現期間は1421年
(データ:アメダス「鎧畑」の1977〜2012年の年最大値,方法:岩井法)

崩壊形状

崩壊は谷斜面で発生している(図1,写真1).
小型のレーザー距離計を用いた簡易測量の結果を図2に示す.勾配34.1°の斜面(以下,上部斜面と呼ぶ)は谷頭部になっており,ここを中心に崩壊が発生して流動化しながら勾配16.3°の斜面(以下,中部斜面)と勾配9.8°の斜面(以下,下部斜面)を流れ下ったと考えられる.
頂部滑落崖の一部は先達水力発電所の落水管の脇に形成されている(写真4).

先達水力発電所:1948年12月営業運転開始.最大出力5100kwh,常時出力2200kwh.先達川の水流を4183.5mの隧道水路 により導水し,150mの落差と毎秒4.2m3の水圧により発電する(田沢湖町史).

崩壊幅−約40m(上部斜面)
斜面長−約75m(上部斜面),約350m(上部+中部+下部)

崩壊深(侵食深)−
図2の横断形状と土層構造から推定した上部斜面における崩壊深は,崩壊地の中心部(谷筋)が最大2.5m程度であり,左岸及び右岸の滑落崖に近づくほど小さくなり,滑落崖付近では土層構造から0.5〜1.5m程度と考えられる(写真5).
崩壊深(侵食深)は,斜面下方ほど小さくなり,中部斜面のK地点付近では数10cm程度である.このことは,斜面で生育していた樹木の樹幹だけが土砂により運び去られ,樹幹の最下部や根茎が侵食されずに残っていることから推察される(写真6).

(土層構造は,筑波丸東製の簡易貫入試験機(先端コーン径2.5cm,重錐5kg)を用いて計測した.先端コーンが10cm貫入するのに必要な打撃回数をNc値とする.崩壊深2〜3m以下の斜面崩壊では,一般にNc値が5〜10以下の土層が侵食されることが知られている.)

図2 測量・簡易貫入試験結果
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写真4 崩壊地頂部の滑落崖付近から崩壊地末端を写す
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写真5 崩壊地側壁の滑落崖の土層.凝灰岩の基盤岩を数10cmから2m程度の土層が覆っている.
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写真6 中部斜面から上部斜面を見る.写真中の貫入試験はK地点.
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崩壊地の基盤岩

基盤岩は凝灰岩(おそらく玉川溶結凝灰岩)である(写真7).ただし,崩壊地頂部の滑落崖にのみ安山岩(おそらく大黒溶岩)の岩塊が露出している(写真8,9).この岩塊は残積性と考えられるが、運積性である可能性もある.

凝灰岩岩盤(写真7)

すべり面に露出する凝灰岩岩盤の中で比較的新鮮なものは節理がほとんど無い.この部分のシュミットロック反発値は約32である.この比較的新鮮な凝灰岩を凝灰岩Aと呼ぶ.
一方,写真右に示すように,凝灰岩の一部には崩壊前の斜面に沿うようなシーティング節理が見られる.この節理に挟まれた各ブロックの厚さ1〜5 cmでありブロックは7枚ほど重なっていた.節理に垂直方向のシュミットロック反発値は約11である.このシーティング節理の間隔が狭い部分を凝灰岩Cと呼ぶ.
また,凝灰岩Cの直下の凝灰岩は,ハンマーで打撃を加えると厚さ10〜15 cmのブロックに分離される.この部分の凝灰岩のシュミットロック反発値は約18である.このシーティング節理の間隔が広い部分を凝灰岩Bと呼ぶ.
凝灰岩Aや凝灰岩Bに比べて凝灰岩Cの分布範囲は狭い.このことから,凝灰岩Cは崩壊により削り取られたと考えられる.

(シュミットロック反発値は,同じポイントで繰り返しハンマーを打撃する連打法で計測した.本調査の場合,1〜4回打撃を繰り返すとその後はほぼ一定の反発値となった.この値を,調査対象岩盤のシュミットロック反発値とする.)

写真7 基盤岩(凝灰岩)
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写真8 崩壊地頂部の滑落崖に安山岩の岩塊が露出している(赤で囲った部分)
青で囲った部分には安山岩礫が積み重なっており,湧水も見られる.
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写真9 滑落崖の安山岩岩塊の拡大写真
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すべり面

上部斜面から中部斜面の谷筋以外の場所では主に凝灰岩(凝灰岩A・Bの表面)やその風化土の中にすべり面が形成される(写真6,10).この凝灰岩A・Bは難透水層となり,土層中での地下水面の形成を促したと考えられる.
一方,上部・中部斜面の谷筋や下部斜面では,風化した火山砕屑物の運積土中に形成されることが多い.この場合でも,運積土の下部にある凝灰岩が難透水層となったと考えられる.

写真10 凝灰岩の原位置風化土(指さした部分).比較的粘土質.山中式土壌硬度23〜27mm
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写真11 崩壊面に露出する風化した火山砕屑物の運積土
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地中水

J地点やK地点の貫入試験(図2)においては約50cmより深部がかなり湿った状態であることがわかった.このことからJ地点付近に湧水点がある可能性がある.さらに,頂部滑落崖の左岸壁も湿っており,ここにも湧水点が存在する(写真8の青で囲った場所).
また,上述したように基盤岩の凝灰岩は難透水層と考えられ,土層中での地下水面の形成を促したと考えられる.

崩土

崩土の多くは谷底を埋積していた褐色または黒色の火山砕屑物や凝灰岩の風化物およびその運積土である(写真2,3).この運積土の中には安山岩礫や樹木が混ざっている.

写真12 崩土の様子
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その他

調査地付近の自治体の変遷

1889年〜1956年 仙北郡田沢村
1956年〜2005年 仙北郡田沢湖町
2005年〜    仙北市

過去の災害

先達川沿いや荷葉山の山腹(調査地を含む)においては,過去の土砂災害の記録はほとんど確認できないことから,少なくとも過去100年程度は大きな土砂災害が発生していないと考えられる.
一方,田沢湖の南東部を流れる生保内川沿い(仙岩峠までの国道46号線沿い)では,1960年の田沢湖水害など崩壊・土石流・洪水災害が何度も発生している.ただし,生保内川沿いには生保内花崗閃緑岩が広く分布しており,今回の災害とは地質が異なる.
また,1896(明治29)年8月31日の陸羽地震(M7.2,震源地は調査地より30km南)や,1914(大正3)年3月15日の秋田仙北地震(M7.1,震源地は調査地より40km南西)による,田沢町の災害は少なかったようである(佐藤ほか,2009:武村ほか,2010).

田沢湖水害:1960(昭和35)年8月3日 集中豪雨によって生保内川の堤防が決壊・氾濫.崩壊・土石流も発生した.田沢湖町沼田集落(田沢湖駅から南東に約900m)の死者・行方不明者15名


文献

小針博通(1974)秋田県荷葉岳火山の岩石:岩石鉱物鉱床学会誌,69-1, 1-8.
佐藤佳和・水田敏彦・鏡味洋史(2009)1896.8.31陸羽地震の被害に関する文献調査−秋田県山間部の被害−:日本建築学会学術講演梗概集. B-2, 269-270.
須藤茂・板谷徹丸・向山 栄(1989)約 70 万年かかった荷葉岳火山の生成:日本火山学会講演予稿集,1989-1, 68.
武村雅之・高橋裕幸・津村建四朗(2010)1914(大正3)年秋田仙北地震の被害データと震度分布:歴史地震,25, 1-27.

秋田県仙北市田沢湖田沢,先達集落の斜面崩壊
http://mizu.bosai.go.jp/c/c.cgi?key=2013_senboku

2013年8月9日秋田県・岩手県の豪雨
http://mizu.bosai.go.jp/c/c.cgi?key=2013_AkitaIwate