国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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岩手県周辺の大雨のメカニズム(平成28年台風第10号)

更新履歴

  • 平成28年8月31日 初版

連絡先 

  • 水・土砂防災研究部門 三隅
  • 広報課担当者 菊地・三好(029-863-7784)

 概要

平成28年台風第10号は、太平洋から岩手県大船渡市に上陸する経路をとり、各地に大きな被害をもたらしました。平成28年8月31日18:00現在、岩手県で死者11名・行方不明者2名、北海道で行方不明者3名が確認されています(消防庁災害対策本部)。本ページでは、気象レーダを用いた大雨発生メカニズムに関する解析結果を報告します(速報につきデータや内容が更新・変更されることがあります)。

 岩手県周辺の大雨

降水システムの立体構造

図1は、2台の気象庁レーダを合成することで得られた、大雨をもたらした雨雲の立体構造を示しています。山岳上の雨雲の上空を,台風本体の雨雲が通過して雨を強めたと考えられます。

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図1. 2台の気象庁レーダ(秋田および仙台)を合成したレーダ反射強度の三次元分布を太平洋上空から見た様子。白・青・黄色・赤の等値面はそれぞれ25dBZ、30dBZ、35dBZ、40dBZのレーダ反射強度を示す。地図情報は国土地理院地図(色別標高図)を利用。

雨雲の鉛直断面図

岩手県の山岳域では、台風上陸前は高度8km以下の背の低い雨雲に覆われていました。そこへ高度17kmに達する非常に背の高い台風本体の雨雲が通過して、非常に強い雨を降らせました。

  • 台風上陸前の状況

上陸前の朝9時からレーダ反射強度35dBZの雨が岩手県の陸地で継続していました。雨雲の背の高さは、15dBZの等値線で見ると、高度8km以下です。高度4kmより下層では、やや強い雨が降っています。
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図2.2台の気象庁レーダ(秋田および仙台)に基づく、岩手県上空を通過する雨雲のレーダ反射強度(北緯38.8°〜40.5°の最大値)。横軸の太線が陸地を表している。

  • 台風上陸後の状況

台風の上陸時には、高度17kmに達する非常に背の高い積乱雲が通過し、強い雨をもたらしています。積乱雲も上陸後に反射強度が強まっています。
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図3.2台の気象庁レーダ(秋田および仙台)に基づく、岩手県上空を通過する雨雲のレーダ反射強度(北緯38.8°〜40.5°の最大値)。横軸の太線が陸地を表している。

山地による降雨の強化

北上山地に形成された雨雲の上に、台風本体の雨雲が通過して、降雨が強化された様子を図示します。
SN-time-j.png

図4.気象庁作成の「5分毎1kmメッシュ全国合成レーダーGPV」を用いて作図した、8月29日午後9時(日本時間)から31日午前9時までの、東経142度に沿った降水強度の南北時間断面。各時間各緯度における雨量強度は、141.5度から142.5度までの1度幅内の最大値を選んで描画した。降雨の激しかった北上山地は、北緯39度から40度くらいにかけて存在している。北緯37度付近に見えている強い降水が30日朝に台風の北側にあった台風のアウターレインバンドである。台風が北上するに従い、降雨域も北上している。台風が岩手県に近づくにつれて、北上山地で降雨が強まっている様子が見える。また、北緯39度から40度付近は台風接近前から降雨が継続していたことがわかる。

シーダー・フィーダー機構

湿った風が山岳上に雲をつくり、そこへ台風などの雨雲が通過すると、山地上で雨粒が雲粒を捉えて成長し、強い雨が降ることが知られています。これをシーダ・フィーダ機構と呼んでいます。今回の豪雨も、シーダ・フィーダ機構によって発生したことがひとつの可能性として考えられます。

シーダーフィーダー.jpg

図5.シーダ・フィーダ機構の模式図