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更新履歴
- 平成30年7月23日 初版
- 平成30年7月26日 図1–4を更新
- 平成30年7月27日 「浸水した地域の特徴」について追記
連絡先
- 水・土砂防災研究部門 上米良・前坂
- 広報課担当者 笹嶋・菊地(029-863-7798)
概要
広島県・岡山県を流れる高梁川水系小田川の流域(図1)について、国土交通省のデータなどを解析して、2018年7月5日から7日の大雨と河川の増水、それにより発生した浸水の状況を調べました。
- 小田川の流域では7月5日から7日の3日間にわたり降雨が継続しました。3日間の総雨量は流域平均して約320 mm/(3 day)でした。(図2)
- 小田川下流の矢掛町東三成では、7月5日、6日の両日、夕方から未明にかけて6時間ほどの間に約3–4 m川の水位が急激に上昇しました。(図2)
- 小田川下流に位置する倉敷市真備町の広い範囲が浸水しました。浸水域の面積は8.28 km2、浸水の総量は15.3 × 106 m3と推定されました。(図3)
- 浸水の総量を小田川の流域平均の水の深さに換算すると31.7 mmとなり、3日間の総雨量320 mm/(3 day)のおよそ1割に相当する量の水が真備町に流れ込んだと推定されました。(図3)
- 倉敷市真備町の宅地や農地が広がる堤内地の高さは、堤防の高さより平均して6 mほど低いことが分かりました。(図4)
解析に用いたデータや情報の詳細は、この記事の最後の「謝辞」に示しています。
小田川の流域
図1: 小田川の流域(薄い水色で網かけされた範囲)。流域の面積は483 km2。2種類の河川流路網データ(HydroSHEDS、W05)に基づいて流域を同定した。小田川は西から東に向かって流れ、流域東端の倉敷市真備町の東側で高梁川と合流する。東三成観測所では国土交通省が河川水位を観測している。(図をクリックすると、拡大されます。)
流域平均雨量と河川水位の経時変化
図2: 小田川の流域平均雨量とその累積値の経時変化(上)、小田川下流の矢掛町東三成における河川水位の経時変化(下)。雨量は国土交通省水管理・国土保全局の「Cバンドレーダオンライン合成雨量データ」(赤)、同気象庁の「解析雨量」データ(青)に基づく。河川水位は東三成観測所のデータに基づく。河川水位の極大に逆さ三角を付した。
- 小田川の流域では7月5日から7日の3日間にわたり降雨が継続した。
- 3日間の総雨量は流域平均して約320 mm/(3 d)であった。
- 7月5日の降雨により、川の水位は平常より3 mほど上昇した。(2018-07-06 01:00 15.26 m)
- 翌7月6日の降雨により、水位はさらに上昇し、平常より6 mほど高い状況となった。(2018-07-07 02:00 18.43 m)
- 7月5日、6日の両日、夕方から未明にかけて6時間ほどの間に約3–4 m川の水位が急激に上昇した。
- 水位変化の波形には4つの極大が認められる。水位の極大は降雨の極大から4時間半から6時間半遅れて出現した。
浸水深の地理的分布
図3: 小田川下流に位置する倉敷市真備町の浸水深の地理的分布。上空から撮影された写真をもとに浸水域を判読、浸水面の標高を水平一様に12.5 mと仮定し、国土地理院の詳細な地形データ(DEM5A)を用いて推定した。図中左上の白い部分のデータは存在しない。
- 浸水深の分布は国土地理院の分析結果「浸水推定段彩図」とほぼ一致する。
- 浸水域は岡山河川事務所が公表している「洪水浸水想定区域図(計画規模)」の「3.0m〜5.0m未満の区域」とほぼ一致する。
- 浸水域の面積は8.28 km2、浸水の総量は15.3 × 106 m3と推定される。(15.3 × 106 m3の水は25 mプール51,000杯分に相当。1杯300 m3として換算。)
- 浸水の総量を小田川の流域平均の水の深さに換算すると31.7 mmとなる。すなわち、3日間の総雨量320 mm/(3 d)のおよそ1割に相当する量の水が真備町に流れ込んだと推定される。
- 1時間雨量の最大値は7月6日21–22時の27.1 mm/hである(流域平均)。これはつまり、浸水の総量31.7 mmに匹敵する量の雨が、6日夜のわずか1時間の間に降ったことを意味する。(27.1 mm/hは「Cバンドレーダオンライン合成雨量データ」に基づく。)
浸水した地域の特徴
図4: 小田川下流の堤防(赤)と堤内地(青)の標高の度数分布。国土地理院の詳細な地形データ(DEM5A)を用いて求めた。
- 倉敷市真備町の宅地や農地が広がる堤内地の高さは、堤防の高さより平均して6 mほど低い。
- 国土地理院の「治水地形分類図(更新版、旧流路なし)」によると、堤内地の大部分は氾濫平野(氾濫原)であり、元来、浸水しやすい土地であると理解できる。
- 堤内地に分布する後背湿地(周囲より低く、水が溜まりやすい土地)や旧河道(昔の河川流路)の位置と図3に示す浸水深が深い場所は概ね一致する。
- これらは浸水に対する地域の脆弱性を考える上で重要な事実である。
謝辞
- HydroSHEDSデータを活用しました。
- 国土交通省国土地理院の国土数値情報「河川」データ(W05、第3.1版)を活用しました。
- 国土交通省国土地理院の「地理院地図」を用いて地図(図1)を作成しました。
- 国土交通省水管理・国土保全局の「Cバンドレーダオンライン合成雨量データ」を活用しました。
- 国土交通省気象庁の「解析雨量」データを活用しました。
- 国土交通省中国地方整備局岡山河川事務所東三成観測所の河川水位データを「川の防災情報」より取得し活用しました。
- 国土交通省国土地理院の基盤地図情報「数値標高モデル」データ(DEM5A)を活用しました。
- 国土交通省国土地理院の「平成30年7月豪雨に関する情報」の情報を活用しました。
- 国土交通省中国地方整備局岡山河川事務所の「岡山三川洪水浸水想定区域図について」の情報を活用しました。
- アジア航測株式会社の『「平成30年7月豪雨」(西日本豪雨)災害(2018年7月)第一報』の情報を活用しました。
- 宇宙航空研究開発機構の『「だいち2号」による平成30年7月豪雨の観測結果について』の情報を活用しました。
- 国土交通省国土地理院の「治水地形分類図」の情報を活用しました。
- Generic Mapping Toolsを用いて図(図2–4)を作成しました。