国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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土石流避難の成功例(平成24年九州北部豪雨)

 1.はじめに

 一般に土砂災害の発生予測は難しく、土石流避難の成功例はあまり多くない。平成24年九州北部豪雨について、現地ヒヤリング調査により少数ながら土石流の事前避難に成功した事例が得られたので紹介する。

 避難の成功例


Aさんの例(市役所からの情報を活用)

 阿蘇市坂梨地区に住んでいたA氏は、災害前夜(7月11日)の段階では災害の発生を全く予測していなかった。夜12時の段階でも雨の降りは大したことはないと判断していた。消防団員でもあるA氏は、夜中の1時すぎから入り始めた市の防災無線情報を聞いていた。4時頃に市役所から見回りを依頼された。しかし外は冠水しており、既に見回りのできる状況ではなかった。5時頃、家族を家の前の自動車に避難させた。5時50分頃に土石流が家屋を襲い、家が全壊した。しかし家族を事前に避難させていたため無事であった。

Bさんの例(自らの判断で避難)

 阿蘇市坂梨地区のB氏もまた、災害前夜(7月11日)の段階では災害の発生を全く予測していなかった。B氏の場合は防災情報を全く得ていなかったが、近くで水が流れる音が気になって眠れなかったとのことである。朝6時前、家の上の方の崖が崩れるのを目視で発見し、すぐに隣家に避難した。その直後に土石流で家が全壊したが、事前避難して無事であった。

 3.市役所の対応

 A氏の例では、市役所からの情報が伝わり、事前避難の成功につながっている。そこで災害前後の阿蘇市役所の対応について、市の担当者にヒヤリングを行った。

阿蘇市対応.png

阿蘇市役所の対応と、平成24年7月11日〜12日におけるアメダス阿蘇乙姫の降水強度、積算雨量

市役所から市民への情報伝達手段

 阿蘇市役所では、緊急の災害情報を以下の4つの手段で市民に直接伝達している。

  • 防災行政無線

 屋外のスピーカーと、各家庭に配布されている個別受信機の両方で市役所からの情報を聞くことができる。個別受信機の普及率は90%を超えているとのことであった。

  • IP告知放送機器「お知らせ端末」

 行政と住民が双方向で、映像、文字および音声を通じたコミュニケーションを行う、画面のついたIP電話である。

  • 阿蘇安心安全ネットワーク

 市役所からのメール配信システム。防災情報のほかに、火災情報、行先不明者情報、交通情報、防犯情報、感染症情報などを伝達する。

  • 自主防災組織を通じた情報伝達

 各地区区長、消防団に市役所から情報を伝達し、人を介して市民への周知を図る。

気象情報の共有

 
 阿蘇市役所においては、今回の災害時において「熊本県統合型防災情報システム」を活用して雨量情報、水位情報、土砂災害警戒情報を監視していた。同システムはインターネットを通じて市民も閲覧することができ、また広域消防本部においても同じ情報を活用していた。このように同一の情報を各防災担当で共有することによって、相互の防災情報のギャップが生じないシステムになっている。

 4.まとめ

 
 今回の災害において、阿蘇市役所の発災前の避難指示および勧告、4通りの方法を用いた市民への情報伝達、地元消防団による活動等により危険情報が周知され、一部ではあるが土石流の事前避難の成功につながったものと考えられる。