更新履歴
- 令和6年8月29日 初版
連絡先
- 水・土砂防災研究部門 下瀬
本サイトの短縮URL → https://mizu.bosai.go.jp/key/2024TY10_tornado
概要
令和6年台風第10号に伴い、8月28日14時前に宮崎市土佐原周辺で、また、23時前に宮崎市赤江周辺で突風が発生し、人的被害や住宅への被害がありました(14時前に発生した突風については宮崎地方気象台による調査で竜巻と推定:宮崎地方気象台による発表[PDF])。突風発生時には、台風のアウターバンドで発生した活発な積乱雲が当該地区を通過していました。
図1:突風が発生した地域(国土地理院地理院地図を加工して作成)
水・土砂防災研究部門では、種子島に設置されている気象庁Cバンドレーダーの3次元観測データを用いて突風をもたらした積乱雲の特徴を解析し、突風発生時には、台風のアウターバンドでしばしば竜巻を引き起こす「ミニスーパーセル」とよばれるメソサイクロンという渦を持つ比較的背の低い積乱雲が通過していた可能性が示唆されました。
8月28日14時前に宮崎市土佐原周辺で突風をもたらした積乱雲について
積乱雲と台風の関係
図2に、13時48分頃の種子島に設置されている気象庁Cバンドレーダーの仰角0度の(a)雨の強さ(反射強度)と(b)雨粒の動き(ドップラー速度)を示す。青色の四角で囲まれた部分について、降水強度で〜50 mm/h(反射強度で45〜50dBZ)と発達した積乱雲が見られている。この積乱雲は台風のアウターバンドで発生したものであった。
図2:2024年8月28日13時48分頃の種子島に設置されている気象庁Cバンドレーダーの仰角0度の(a)反射強度と(b)ドップラー速度。青色の四角で囲まれた領域について以降詳細に解析。
積乱雲内の渦状のパターン
図3に、図2の青い四角内における13時43分頃〜13時53分頃の高度約1.5 km(仰角0度)〜約2.5 km(仰角0.3度)の(a)雨の強さ(反射強度)と(b)雨粒の動き(ドップラー速度)を示す。局所的に約100 mm/h(55dBZ)に迫る部分があるなど、非常に発達した積乱雲が宮崎市土佐原周辺を通過したことがわかる。(b)の雨粒の動きを示すドップラー速度は、レーダーに対して遠ざかる雨粒の速度を正、近づく雨粒の速度を負として表すものであり、図における暖色系が北北東方向へ、寒色系が南南西方向へ雨粒が動いていることを示す。発達した積乱雲の南東端の部分に寒色系と暖色系が対となる渦状のパターンが解析されており、この場合は図の矢印のように反時計回りの渦が存在していたことを示唆する。この渦をメソサイクロンと呼ぶ。本事例ではメソサイクロンの大きさは直径数キロメートル程度であった。メソサイクロンを伴う積乱雲はスーパーセルとよばれ、しばしば竜巻を引き起こすことが知られている。
図3:2024年8月28日13時43分頃〜13時53分頃の種子島に設置されている気象庁Cバンドレーダーの仰角0度または0.3度の宮崎市土佐原周辺の(a)反射強度と(b)ドップラー速度。青い楕円は突風を発生させたとみられる積乱雲の位置を示す。
積乱雲の背の高さ
図4に、図2の青い四角内における13時43分〜45分頃の高度約1.5 km(仰角0度)、約8 km(仰角2.5度)、約12 km(仰角3.7度)の雨の強さ(反射強度)を示す。積乱雲の雨粒は高度8 km付近までは存在していたが、高度12 km付近には存在していなかった。竜巻を引き起こすスーパーセルの背は高度15 kmを超える(2012年のつくば竜巻や2013年の越谷竜巻)事例が多い中、本事例はスーパーセルの背が高度約10 km程度と比較的低いものである。これはSuzuki et al. (2000)などで報告されている、台風のアウターバンドで発生ししばしば竜巻を引き起こす「ミニスーパーセル」という背の低いスーパーセルの特徴と類似のものであった。
・Suzuki, O., H. Niino, H. Ohno, and H. Nirasawa, 2000: Tornado-producing mini supercells associated with typhoon 9019. Mon. Wea. Rev., 128, 1868–1882.
図4:2024年8月28日13時43分頃〜13時45分頃の種子島に設置されている気象庁Cバンドレーダーの仰角0度・2.5度・3.7度の宮崎市土佐原周辺の反射強度。
8月28日23時前に宮崎市土赤江周辺で突風をもたらした積乱雲について
積乱雲と台風の関係
図5に、22時58分頃の種子島に設置されている気象庁Cバンドレーダーの仰角0度の(a)雨の強さ(反射強度)と(b)雨粒の動き(ドップラー速度)を示す。14時前の宮崎市土佐原周辺の事例と同様に、積乱雲は台風のアウターバンドで発生したものであった。
図5:2024年8月28日22時58分頃の種子島に設置されている気象庁Cバンドレーダーの仰角0度の(a)反射強度と(b)ドップラー速度。青色の四角で囲まれた領域について以降詳細に解析。
積乱雲内の渦状のパターン
図6に、図5の青い四角内における22時53分頃〜23時03分頃の高度約1.5 km(仰角0度)の(a)雨の強さ(反射強度)と(b)雨粒の動き(ドップラー速度)を示す。14時前の宮崎市土佐原周辺の事例と同様に、非常に発達した積乱雲が宮崎市赤江周辺を通過したことがわかる。また、反時計回りの渦が存在していたことを示唆する渦パターンもみられており、本事例でも直径数キロメートル程度のメソサイクロンを伴うスーパーセルが通過していたとみられる。
図6:2024年8月28日22時53分頃〜23時03分頃の種子島に設置されている気象庁Cバンドレーダーの仰角0度または0.3度の宮崎市赤江周辺の(a)反射強度と(b)ドップラー速度。青い楕円は突風を発生させたとみられる積乱雲の位置を示す。
積乱雲の背の高さ
図7に、図5の青い四角内における22時53分〜55分頃の高度約1.5 km(仰角0度)、約8 km(仰角2.5度)、約12 km(仰角3.7度)の雨の強さ(反射強度)を示す。14時前の宮崎市土佐原周辺の事例と同様に、本事例もスーパーセルの背が高度約10 km程度と比較的低いものであり、ミニスーパーセルの特徴と類似のものであった。
図7:2024年8月28日22時53分頃〜22時55分頃の種子島に設置されている気象庁Cバンドレーダーの仰角0度・2.5度・3.7度の宮崎市赤江周辺の反射強度。