国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2011年7月新潟県・福島県における大雨

概要

2011年7月28日から30日にかけて、新潟県および福島県で記録的な大雨が降り、甚大な被害が生じました。

MPレーダを用いた降雨量の推定


 防災科学技術研究所が開発した、MPレーダによる降雨推定手法を用いて、雨量分布の推定を行いました。

総雨量の分布


2011年7月28日9時〜30日15時における総雨量の分布を示しています(データは国土交通省MPレーダ「京ヶ瀬」、背景地図はGoogle Earthを利用)。三条市を流れる五十嵐川の上流(笠堀湖周辺)で、この間の総雨量が800mmを超えていることが推定されます。



最大1時間雨量の分布

 
2011年7月28日9時〜30日15時における最大1時間雨量の分布を示しています(データは国土交通省MPレーダ「京ヶ瀬」、背景地図はGoogle Earthを利用)。総雨量の多い三条市以外にも加茂市、阿賀野市、新潟市の一部、見附市などでも80mm/hを超える猛烈な雨が推定されています。また強い雨は、総雨量のピークよりも平野側で観測されています。



降水量の時間変化


降水量の大きかった範囲(139.0 - 139.4E, 37.3-37.7N)で平均された降雨強度の時間変化は以下の通りになります(世界標準時)。
この範囲では雨の強い時間が2回(日本時間で29日の昼前と29日夜から30日未明にかけて)あったことがわかります。

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現地調査


調査目的

 平成23年7月新潟・福島豪雨による被害状況を把握し、防災科学技術の水準の向上のために必要な研究課題を検討する。

調査日程、調査員

 日程:平成23年8月3日〜4日
 調査員:三隅 良平・加藤 敦・若月 強・吉井 護・佐藤 高広(水・土砂防災研究ユニット)、 土志田 正二(災害リスク研究ユニット)

 土砂災害


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(左図)土砂災害調査位置図 (国土地理院50mメッシュデータ使用)
(右図)土砂災害調査位置周辺の地質図 (産業総合研究所20万分の1シームレス地質図使用)

土砂災害調査場所
 ・小谷市西吉谷・東吉谷の表層崩壊 (地質: N3sn)
 ・十日町市乙六箇所谷の土石流と橋の流出 (地質: Hsr)
 ・十日町市丁の羽根川左岸の大規模崩壊と天然ダム (地質: Q1sr)
 ・三条市早水の斜面崩壊と土石流 (地質: Hsr)
 ・三条市牛野尾の斜面崩壊と土石流 (地質: Hsr)

小千谷市西吉谷・東吉谷の表層崩壊

地質は、鮮新統上部−更新統下部のシルト岩礫岩の互層である。
調査地を南北に走る県道56号線沿いでは、受け盤となる西向き斜面に表層崩壊が多発していた。
シルト岩と礫岩の層厚は最大1〜2m程度であり、礫岩層はかなり風化している。
それぞれの表層崩壊の規模は、斜面勾配約40°、崩壊幅5〜15m、崩壊深1m以下、崩壊長約10〜20m程度である。

小千谷市西吉谷P8030010.JPG
小千谷市西吉谷1.jpg
西吉谷

小千谷市東吉谷P8030033.JPG
東吉谷

十日町市乙六箇所谷の土石流と橋の流出

   (Hsr: 後期更新世-完新世(H)の海成または非海成堆積岩類)
 7月30日未明,土石流が発生し橋が流出.土砂堆積物が河床に広く堆積している.現地から見える崩壊の厚さは薄く,この堆積土砂の十分な供給源とは考え難い.上流側で大規模な崩壊・地すべりが発生している可能性がある.

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表層崩壊と土砂堆積物

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土砂堆積物及び,橋の流出現場

十日町市丁の羽根川左岸の大規模崩壊と天然ダム

(Q1sr: 前期更新世(Q1)の海成または非海成堆積岩類)
 豪雨災害発生から3日後の8月2日午前1時20分頃に発生した大規模崩壊.幅約100m, 高さ約70m.段丘崖で発生した崩壊で,見た目は崩壊深は浅かった様に見えるが,土砂堆積物の量から,数m程度の深さは持つと想定される.土砂流出量は約35,000㎥(深さを5mと推定),堆積物により羽根川を塞き止め幅10m, 長さ20m程度の天然ダムを形成している.
 豪雨時から3日後に崩壊が発生した原因は不明だが,大規模崩壊発生場所の北側の露頭で湧水が強い勢いで噴出していることから,地下水挙動が原因の一端を担っていると推定される.また,本地域は2010年冬にほぼ同地域で崩壊が発生していた箇所でもある.7月28日豪雨災害直前に撮影された写真を,北見工業大学の山崎新太郎氏から提供を受けたので掲載する.

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大規模崩壊(下流側から望む)

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大規模崩壊と天然ダム(上流側から望む)

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大規模崩壊付近(北側)で見られた湧水

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大規模崩壊発生前(7月28日)に撮影された同地域の写真(山崎新太郎氏提供)

三条市早水の斜面崩壊と土石流

(Hsr: 後期更新世-完新世(H)の海成または非海成堆積岩類)
 幅10〜15m程度の浅層崩壊(深さ5〜10m程度).崩壊規模に比べて土砂堆積物が多く,かなりの距離を流動化している.谷を一部塞き止めており,小規模な天然ダムの形成が確認された.

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崩壊源頭部

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天然ダム

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流動化した土砂堆積物


三条市牛野尾の斜面崩壊と土石流

地質は、鮮新統上部−更新統下部の泥岩及び砂質泥岩を主体とし、一部中新統上部の泥岩を含む。
牛野尾地区では、2カ所で土石流が発生しており、住宅などを押しつぶした。
写真は、南側に位置する規模の小さな土石流であり、小屋を押しつぶした。
土石流の源頭部は踏査していないが、斜面崩壊が土石流化したものと考えられる。

三条市牛野尾2.jpg
押しつぶされた建屋

三条市牛野尾4.jpg
谷出口から土砂の堆積域を見る

三条市牛野尾P8040275.JPG
谷出口−小さな沢を流下してきたことがわかる

写真の調査地より250m北側では、30日午前7時55分頃、山頂付近で発生した斜面崩壊が規模の大きな土石流を引き起こして、2棟が全壊している。

また、調査地を南北に走る県道183号線に沿う東向き斜面では、早水地区から牛野尾地区までの1.5 kmの範囲だけでも10カ所以上の斜面崩壊地が確認でき、土石流の流出跡も見られた。

 新潟県小千谷市 茶郷川破堤氾濫被害概況


茶郷川概要

茶郷川は一級河川信濃川水系の支流であり、全長8.4kmの比較的小規模な河川である。茶郷川は小千谷市内を信濃川に沿うようにして北へ流下し、城ノ入川や二ノ宮川といった支流が合流して信濃川へ注いでいる。

破堤箇所

破堤箇所は小千谷市街地の南西にあり(2箇所)、○で示した小千谷市上ノ山地区と土川地区である。
茶郷川1.png

?小千谷市上ノ山地区破堤浸水被害状況

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上写真は上ノ山地区の破堤箇所の様子である。茶郷川は河床幅約10〜15m,護岸高約3mであり、新潟県土木部の発表によると、上ノ山地区の破堤は茶郷川右岸20mである。調査時は大型土のうによる応急護岸が施されていた。

小千谷市上ノ山地区被害状況3.png
茶郷川の破堤により、周囲の家屋2棟が床上浸水の被害に遭った。浸水深は約1.2mであった。住民への聞き取り調査によれば、破堤したのが7月29日21:00〜22:00の間であり、直後に浸水が始まったとのことであった。

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床上浸水被害家屋
赤線まで浸水痕が見られた。また、家屋や図左側の作業場には土砂の堆積が見られた。
なお住民の証言によると、小千谷市消防本部や地元消防団が警戒にあたったとのことであった。


?小千谷市土川地区破堤等の被害状況

小千谷市土川地区被害状況2.png
上図は土川地区の破堤状況である。河床幅は約10〜15m,護岸高は約4mであり、流路は直線的であった。この付近は小規模な段丘になっており、氾濫水は段丘上にある家屋に被害を及ぼすことはなかった。新潟県土木部の発表によると、土川地区の破堤は左岸約35mであった。破堤後、大型土のうによる応急工事が施され、左図のように護岸がされていた。

小千谷市土川地区被害状況3.png
破堤後水田に出水し、広範囲にわたり冠水した形跡が見られた。上ノ山地区よりやや破堤規模が大きかったが、左岸側に家屋がなかったことから、浸水被害が田畑のみであった。また、水田の一部に鉄板が敷設されており応急護岸工事の際にその部分を埋め立てて工事が行われたようであった。

 魚沼市


魚沼市被害概況

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被害調査場所

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破間川破堤箇所と浸水範囲図(魚沼市長堀新田地区)

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羽根川破堤箇所と浸水範囲図(魚沼市池平新田地区)

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 五十嵐川の被害(記 加藤 吉井)


(1)森町の破堤被害

森町全体図.JPG
森町インパクト図.JPG
・五十嵐川右岸の破堤浸食により,確認できるだけで家屋などが7〜8棟流出していた.
・越水痕跡は見られなかった.
・三条市の報告によれば,7月30日5:07(2棟流出)と6:35(家屋2棟と小屋5棟が流出)に被害の通報があった.
・災害発生前に消防による避難指示があり,避難は完了していたようである(ヒアリング結果)

(2)江口地区等の破堤被害

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・五十嵐川右岸が数百mに及び破堤していた.
・三条市によれば,7月30日0:24と2:39に越水の報告,5:00に決壊の報告があった模様である.

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・調査時には,応急対策として,土嚢が積み上げられており,確認できるもので最大6段であった.

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・破堤地点周辺は,床上浸水はあったものの,家屋倒壊や流出などの被害は無かった.

南中浸水深.JPG
・2km程度下流にある南中地区では,多数の床上浸水被害がみられた.江口地区の氾濫水が流下したものと考えられる.


 平成23年7月新潟福島豪雨,ダムによる洪水調整について〜五十嵐川を中心として〜

概要

平成23年7月28日〜30日にかけて,朝鮮半島から北陸地方に停滞した前線に向かって,温かく湿った空気が流入し,新潟・福島地域を中心に線状の強雨域が,たびたび発生,死者・行方不明6名,全壊戸数39棟,床上浸水1806棟,床下浸水7419棟(消防庁平成23年8月9日調べ)の被害が発生した。
 新潟・福島地域では平成16年7月13日〜16日にかけても豪雨(以下平成16年豪雨)が発生し,死者16名,全壊戸数70棟,床上浸水2149棟,床下浸水6208棟の被害が発生している。
 平成16年豪雨で被害の中心地の一つであった五十嵐川流域(死者9名,床上浸水694棟,床下浸水1532棟)では,今回も豪雨にみまわれたものの被害は,前回と比べ死者や床上などの甚大被害は半数以下(死者1名,床上浸水301棟,床下浸水1514棟)であった。
 本被害では,今回の豪雨に対するダムの洪水調整について,新潟県の公表データを元に解析した.

被災地周辺の河川とダム

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・一級河川信濃川に流入する多数の河川と日本海に直接流入する河川がある。
今回被害を受けた五十嵐川は,破間川などの河川は,信濃川の支流にあたる。
五十嵐川は河川延長38.686km,流域面積310?2 であり,笠堀ダム・大谷ダムという二つのダムにより洪水調整がなされている。
・五十嵐川に今回の豪雨では洪水調整用ダムの但し書き放流を行っており,今回の水害をみるうえでダムの洪水調整効果及び流域内の水害と放流との関係を議論することは重要である。
新潟県河川管理課HP http://www.pref.niigata.lg.jp/kasenkanri/1200589238038.html
信濃川下流(山地部)圏域河川調整計画
http://www.pref.niigata.lg.jp/kasenkanri/1200589238038.html
信濃川水系破間川流域河川整備計画
http://www.pref.niigata.lg.jp/kasenkanri/1205428569834.html

ダム地点雨量

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・平成16年豪雨は,時間雨量を60?以上の豪雨(peak-a)が発生した2〜3時間後に豪雨(peak-b)が発生していが,時間雨量40?程度であった。
・平成23年豪雨は,時間雨量80?以上の豪雨が(peakA)した2〜3時間後に70?以上の豪雨が発生している。さらにその10時間後に60?以上の豪雨が発生した。
・平成23年豪雨は,イベント期間中に60〜80mm/hの豪雨が3回発生し,平成16年豪雨に比べ総雨量も倍以上になっている。

ダムの洪水調整

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・ピーク流量を見ると,平成16年豪雨は26%(850m3/s→610m3/s),平成23年豪雨は25%(874m3/s→649m3/s)のカットがなされている.同程度の効果があった.
・流入量の最大値は平成16年(850m3/s)に比べ,やや大きいもの同程度(874m3/s)と言えるが,大きく違うのは,平成23年は3度のピーク流入があった点である.平成16年は2度のピークであった.
・図によれば,平成23年豪雨では,2度のピークはカットできたものの,その後ダムの調整機能は限界に達し(但し書き放流),残念ながら3つ目のピークはカットできていない.
・今回の事例は,繰り返し豪雨が発生した場合のダム調整の難しさが表れた事例であり,MPレーダ等の降雨観測の充実,降雨予測精度の向上が求められる.