国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2011年9月台風12号:被災地の流域特性

被災地の流域 (その1) (記 加藤 敦)


1.熊野川(新宮川水系)の概要と過去の水害


〔流域市町村:熊野市・御浜町・紀宝町・新宮市・田辺市・北山村・下北山村・上北山村・十津川村・天川村・五條市・野迫川村〕

 熊野川(水系名は新宮川)は,紀伊半島南部の中央に位置し,近畿の屋根といわれる3つの山地(大峯山地,台高山地,伯母子山地)の間を曲流し,最大支流である北山川と新宮市・熊野市の境界で合流,熊野灘に注ぐ,比較的大きな河川(幹線流路延長183km,流域面積2360km2)である.また,流路の大部分は急峻な谷になっており,平野部は下流のごく一部に限られている.

 流域の土地利用は約95%が森林,約1.5%が農地,約0.5%が宅地であり,集水域の面積のほとんどが森林で占められている.気候としては太平洋岸気候(南海気候区)に位置し,年平均降水量は2800mmにのぼり,日本の平均降水量1700mmの約1.6倍である.そのため,豊富な水量を活かして,11もの発電用ダムが存在し,流域の洪水流出をみる上で,ダムの流入・放流量情報は重要になる.

 熊野川の水害で最も有名なものは,明治22年8月の十津川大水害(死者175名,流出・全壊家屋1017戸,半壊524戸)である.この水害の原因も今回同様台風であった.当時の台風も四国の東側に上陸後,四国・中国地方をまっすぐに北上,日本海に抜けた.そのため,流域の西側にあたる田辺観測点で日雨量901mm,最大時間雨量169mmを記録するなど各地で激しい豪雨となった.熊野川流域の各地で氾濫を伴う激しい洪水となるとともに,十津川村を中心に甚大な土砂崩落が頻発した.さらに崩壊した土砂が河道閉塞を起こし,各地に天然ダムが形成,その後の雨で,天然ダムが各地で決壊,被害はさらに拡大した.被災者はその後,北海道に新十津川村をつくり移住している.台風のコースや被災地が類似していることは今後の検討に値するだろう.

 その後,昭和34年9月の伊勢湾台風により流域の広い範囲に被害(死者・行方不明者5名,全半壊466戸,床上浸水1152戸,床下浸水731戸)を受けたあとは,流域の下流の平野部に被害が集中,近年でも繰り返し被害を受けている(昭和57年8月洪水,平成2年9月洪水,平成6年9月洪水,平成9年7月洪水,平成13年8月洪水,平成15年8月洪水,平成16年8月洪水).この被害が頻発している地域は,熊野川の下流の平野で合流する河川流域(相野谷川と市田川)であり,その市街地(紀宝町)が本流の高水位より低くなっている.そのため,本流の水位が高くなる度に,内水氾濫を繰り返している.


熊野川.JPG
(新宮川水系河川整備方針(国土交通省河川局)から引用)

2.那智川の概要と過去の水害

〔流域市町村:那智勝浦町〕

 那智川は,和歌山県南東部の那智勝浦町内の川で,那智山と烏帽子山(909m)を水源とし,熊野灘の那智港に注ぐ,比較的規模の小さな河川(幹線流路延長8.5km,流域面積24.5km2)である.上流は急峻な地形(那智四十八滝などがある)であるが,中下流域においては河道の曲流は比較的少なく,沖積作用による幅の狭い谷底平野がある.また4つの支流(金山谷川,長谷川,井谷川,大谷川)が中下流域で合流している.

 流域の土地利用は,森林94%,宅地4%,農地1%である.気候は太平洋岸気候(南海気候区)に属し,年間平均雨量は3300mmに達する.上流には小規模な水力発電所がある.

 過去の水害としては,昭和29年6月洪水や昭和42年10月洪水で1000棟弱の浸水被害,昭和63年9月洪水や平成13年9月洪水で200〜300棟程度の浸水被害を生じている.

 今回の災害では人的被害が非常に多い.また,流域内で数多くの土砂災害も同時発生ししている模様で,詳細な現地調査を実施する予定である.


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(那智川水系河川整備方針(和歌山県)から引用)