第1報(2012年5月6日)
(最終更新:2012年5月7日)
概要
2012年5月6日昼過ぎに茨城県つくば市の広範囲で,突風により死者1人,負傷者30人以上,建物損壊100棟以上の被害が発生した(6日19時現在)。
5月6日午後,水・土砂防災研究ユニットでは被害調査を実施した(鈴木 真一,前坂 剛,岩波 越,清水 慎吾)。多くの目撃情報,映像情報から突風の原因は明らかに竜巻で,被害はつくば市吉沼から同市平沢筑波幼稚園周辺にかけて,西南西から東北東方向に約10kmにわたって直線的に分布していることが確認された。北部工業団地付近の通過は12:45頃である。
被害状況
つくば市吉沼から,西高野,大砂,北部工業団地(和台),水守,山木,泉,北条地区を通り約10kmにわたって直線的に分布していることが確認された(後日行われた気象庁の調査では、約17km の長さに渡って被害が確認された)。図2〜5は代表的な被害の写真である。直径数十cmの樹木が倒れたり,倉庫が屋根だけ残して倒壊したり,車が吹き飛ばされたりしていることから竜巻の風速は藤田スケール(Fスケール)でF2(風速50〜69m/s;7秒間平均)と推定される(6月8日に、気象庁は F3 スケールの竜巻であったと発表した)。
気象状況
水戸地方気象台は12:38に茨城県内に竜巻注意情報を発表し注意を呼びかけていた。図6に国土交通省XバンドMPレーダネットワークによる降雨強度分布の12〜13時の時間変化を示す。発達した積乱雲が竜巻の通過時に,西南西から東北東方向へ被害域を通過していることががわかる。
図6:国土交通省XバンドMPレーダで観測された2012年5月6日12時から13時(日本時間)までの降雨強度 (mm/h) の時間変化.
第2報(2012年5月8日)
(最終更新:2012年5月8日18時)
概要
2012年5月6日昼過ぎに茨城県つくば市北部で発生した竜巻の親雲に関して,降雨強度,および,高度1.5 km付近の風向・風速の水平分布を解析した.気象レーダ観測によると,竜巻をもたらした親雲にはフック*エコーと呼ばれる形状の降水域が伴っていた.フックエコーは竜巻を生成するような回転した積乱雲(スーパーセル)に伴ってよく見られる形状のレーダエコーであり,この周辺で竜巻が発生することが知られている.また,今回解析されたフックエコー周辺では反時計回りに回転する風も解析された.このフックエコーの位置は,竜巻の被害調査から推定された竜巻の経路とよく一致しており,今回の竜巻はフックエコー付近で発生していたものと考えられる.
*フック=鉤(かぎ)
解析方法
さいたま市に設置された国土交通省XバンドMPレーダ,および,千葉県柏市に設置された気象庁Cバンドドップラーレーダにより観測されたドップラー速度データを合成する事により,高度1.5 km付近の風向・風速の水平分布を求めた.
解析結果
図1に2012年5月6日12時32分,40分,44分(日本標準時)における降雨強度,および,積乱雲の移動に相対的な風向・風速を示す.図中の黒い太線は被害調査から推定された竜巻の移動経路を示している.つくば市で竜巻による被害が発生する前の時刻である12時32分では,つくば市の北西側に強い積乱雲に伴う降水域が見られ,その降水域はその強さを弱めながら東北東進している.このことから今回の竜巻の親雲は衰退期にあることが分かる.
図2に気象庁レーダーにより観測されたレーダーエコー頂高度を示す.竜巻の親雲は,12時40分に北条地区(図中+印)の西南西側で高度14kmから16kmのエコー頂を示しており,発達した積乱雲であったことが分かる.また,この親雲の南西部にはフック状の降水域(一般にフックエコーと呼ばれる降水域で,図中では青丸でその位置を示す)が見られ,その周辺では反時計回りの循環(メソサイクロン)が見られる.その循環の相対渦度の最大値は2×10-2 s-1程度であり,竜巻をもたらすようなメソサイクロンとしては一般的な値であった.このフック状の降水域は竜巻の経路上を移動しており,今回の竜巻はこのフックエコー付近で発生したものと考えられる.
図1:2012年5月6日12時32分,40分,44分(日本標準時)における降雨強度(カラースケール;国土交通省XバンドMPレーダで観測されたもの),および,積乱雲の移動に相対的な風向・風速(矢羽根).矢羽根の向きは風向を示し,旗,長棒,短棒はそれぞれ 10 ms-1,2ms-1,1ms-1の風速を示す.黒い太線は被害調査から推定された竜巻の移動経路を示し,青丸はフックエコーの位置を示す.
図2:2012年5月6日12時40分の気象庁レーダーによるレーダーエコー頂高度.図中の+印はつくば市北条の位置を示す。