国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2017年7月18日に首都圏で発生した降雹について

更新履歴 

  • 平成29年7月20日 初版

連絡先 

  • 広報担当者 菊地・三好(029−863−7784)
  • 水・土砂防災研究部門 鈴木・出世・三隅

 概要

2017年7月18日午後、首都圏を中心に関東各地で積乱雲が発達し、一部では降雹が観測されました。特に、駒込駅では屋根の一部が破損した他、池袋駅周辺ではSNSで映像を含む多くの降雹の報告がありました。

水・土砂防災研究部門では、雹をもたらした積乱雲について、国土交通省XバンドMPレーダの観測データを解析し、積乱雲の中に雹の存在を強く示唆する結果を得ました。

 XバンドMPレーダを用いた雹の検出の試みについて

XバンドMPレーダは、単位距離あたりの偏波間位相差(KDP)を用いて、降雨強度を精度よく推定することができます(http://mp-radar.bosai.go.jp/)。一方で、雹は雨粒のように偏平でないことや、氷と水の電磁的な性質の違いによって、大きな粒であってもKDPの値は大きくなりません。つまり雹の場合は、粒子のサイズが大きいためレーダ反射強度(ZH)が大きい一方で、KDPが小さいという特徴があります。このような特徴を利用して、水・土砂防災研究部門では、XバンドMPレーダを用いた雹を検出するアルゴリズム開発の研究をおこなっています。

図1(左)は、7月18日15時10分の高度1 km におけるZHから算出した降雨強度(R(ZH))から、KDPから算出した降雨強度(R(KDP))を引いたもの(dR)です。また図1(右)は、同時刻におけるXバンドMPレーダに基づく降雨強度です。板橋区、豊島区、新宿区、文京区などで雨が強いことがわかりますが、この時刻において雹の可能性が高いdRの大きな領域は、図1(左)から豊島区から文京区の一部のみであることがわかります。

なお、dRの大きさと氷(雹)の量は必ずしも対応しません。また、解析には国土交通省XバンドMPレーダの観測データを使っています。

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図1 2017年7月18日15時10分における国土交通省XバンドMPレーダの観測データに基づく、(左図)高度 1km のレーダ反射強度ZHから算出した降雨強度(R(ZH))から、KDPから算出した降雨強度(R(KDP))を引いたもの(dR(mm/h))、(右図)降雨強度 (mm/h)。色が示す値は右端のスケール(左右共通)。各図の黒い点は池袋駅(左)及び駒込駅(右)の位置を示す。(データ提供:国土交通省、作図:防災科学技術研究所)


 降雹をもたらした積乱雲の構造

  • 降雹をもたらした積乱雲は少なくとも高度14 kmに達していました
  • 積乱雲内部に、雹に特徴的なシグナルが検出されました
  • 雹と雨粒が混在していたと推定されます

(解説)
降雹をもたらした積乱雲のXバンドMPレーダ観測データを図2に示します。

図2(a)において、レーダ反射強度(ZH)が最大で55dBZを超える非常に強い2つのエコー領域A、Bが見られます。防災科研が運用している地上気象リポートシステムふるリポ!(https://fururipo.bosai.go.jp/fururipo/)によると、エコーAの地上付近では降雹の報告がありましたが、現時点でエコーBでは報告がありません。この2つのエコーを通る鉛直断面の偏波パラメータ分布を図2(b)から図2(e)に示します。図2(b)よりエコーAの上空でZHが20dBZ以上の領域が少なくとも高度15km付近まで、また40dBZ以上の強いZHは高度10kmに到達しており、積乱雲は非常に激しく発達していたことが分かります。雨量に関係する単位距離あたりの偏波間位相差(KDP)は、エコーA、Bとも高度5km以下で大きな値を示していますが、エコーAのKDPはエコーBのKDPよりも小さい値でした(図2(c))。図2(d)にみられるように、エコーAの上空(特に高度2kmから7km付近)では偏波間相関係数(ρHV)が0.6以下と小さく、雹の存在が示唆されます。地上付近でもエコーAの中心付近では周囲よりもρHVが小さくなっており、雹が融けきらずに地上まで到達していたと考えられます(図2(d))。レーダ反射因子差(ZDR)は、雨の領域では0dB以上、雹の領域ではおよそ0dBの値をとるパラメータですが、図2(e)にみられるように、雹が存在していた可能性が高いエコーAでも正の値が観測されました。これはエコーAでは雹と雨、さらに融解中の雹が混在していたことに対応していると考えられます。

図3は同じ時刻のZHの三次元分布を示しています。


2vradar

データ提供:国土交通省,作図:防災科学技術研究所
図2
2017年7月18日15時の(a)高度2kmのレーダ反射強度(ZH)と、(a)に示した破線の位置における(b)ZH、(c)単位距離あたりの偏波間位相差(KDP)、(d)偏波間相関係数(ρHV)、(e)レーダ反射因子差(ZDR)の鉛直断面図。データは国土交通省XバンドMPレーダ(新横浜、埼玉、船橋)の観測データを用いて作成した。(a)の黒点は地上で降雹の報告があった位置を示す。


3Dradar
データ提供:国土交通省,作図:防災科学技術研究所
図3 3台(新横浜・埼玉・船橋)の国土交通省のXバンドMPレーダを合成した、レーダ反射強度(ZH)の三次元分布を太平洋側(東)から見た様子。白・青・黄・赤色の等値面は、それぞれ20 dBZ (1mm/hに相当), 30 dBZ(3 mm/hに相当), 40 dBZ (12 mm/hに相当), 55 dBZ (100 mm/hに相当)のZHを示す。地図情報は国土地理院地図(白地図)を利用した。

雹の情報をお寄せ下さい

防災科学技術研究所では、XバンドMPレーダを用いた雹の検出アルゴリズムを検証するため、雹を目撃した方からの情報を募集しています。

  • 雹に遭遇した場所(緯度経度または市町村名)
  • 雹の大きさ
  • 日時

の情報を、ふるリポ!(https://fururipo.bosai.go.jp/fururipo/)または hyo@bosai.go.jp にお寄せ下さい。よろしくお願いいたします。

また、写真や動画などで提供可能なものがございましたら、撮影場所(緯度経度または市町村名)や撮影日時の情報とともに hyo@bosai.go.jp にお送り下さい。よろしくお願いいたします。