国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2018年7月6日から7日に西日本に災害をもたらした雨雲の特徴

(速報につき内容が更新・変更されることがあります)

更新履歴

  • 平成30年7月7日 初版
  • 平成30年7月8日 3次元降雨分布アニメーションの期間を拡大,図3を修正
  • 平成30年7月10日 線状降水帯と判断した根拠資料(図6)を追加
  • 平成30年7月12日 西日本降雨分布図を追加

連絡先 

  • 水・土砂防災研究部門 清水・下瀬・加藤・櫻井・三隅
  • 広報課担当者 菊地・市橋(029-863-7784)

 概要

平成30年7月6日から7日にかけて西日本に災害をもたらした雨雲について、気象レーダの3次元データを用いて解析しました。その結果、以下のことが分かりました。

  • 雨雲の高さは7km程度であり、豪雨をもたらす積乱雲としては背が低い(例えば平成29年7月九州北部豪雨をもたらした雨雲は、高度15kmに達していました)。
  • 豪雨をもたらした線状降水系では、西風と南風が強く収束しており、それによって強い上昇流が維持されていたことが示唆される。
  • 7月6日18時以降、継続的に毎時100mmを超える激しい雨がもたらされていた。

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気象庁Cバンドレーダを合成したレーダ反射因子(雨の強さ)の三次元分布。太平洋上空から見た様子。白・青・赤色の等値面はそれぞれ25dBZ、35dBZ、45dBZのレーダ反射因子で、降雨強度1mm/時、6mm/時、24mm/時に対応する。図中の矢印(竿)はの高さを示すスケールである。




 雨雲の3次元構造(作成:防災科学技術研究所、データ:国土交通省および気象庁)

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図1 気象庁Cバンドレーダおよび国土交通省XバンドMPレーダデータを合成したレーダ反射因子(雨の強さ)の三次元分布。広島県南上空から見た様子。白・青・黄・赤色の等値面はそれぞれ30dBZ、40dBZ、45dBZ、50dBZのレーダ反射因子で、降雨強度3mm/時、12mm/時、24mm/時、49mm/時に対応する。図中の矢印(竿)はの高さを示すスケールである。地図情報は国土地理院地図(色別標高図)を利用。

  • 図1は、広島県に激しい雨が観測された7月6日20時における雨雲の三次元構造を示しています。特徴としては、大雨をもたらす雨雲としては非常に背が低く、その高度が約7kmにしか達していないことです。例えば2014年8月20日に広島周辺に大雨をもたらした雨雲は高度15kmに達していましたし、平成29年7月九州北部豪雨をもたらした雨雲が高度15kmを超えていました。それと比較すると、非常に背が低いということができます。
  • また動画により、既存の雨雲の後方に新しい雨雲が次々と形成される、「バックビルディング」によって線状降水系が維持されていたことが分かります。

動画はこちら
3D降雨分布アニメーション(平成30年7月6日中国地方) ←NEW(7月8日13時に更新)

 雨雲の気流構造

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図2 2018年7月6日午後20時における(上)降水強度の分布と、(下)複数ドップラーレーダ解析による高度2kmの風の分布(ベクトル)を示す。気流解析を行った領域は上図の黒い枠線の範囲内である。

図2は、広島周辺で強い雨が観測された時間における、複数ドップラーレーダを用いた気流構造の解析結果を示しています。

  • 線状降水系に伴う降雨域に対応して、南風と西風が収束している様子が見られた。
  • この2つの気流がぶつかり合う場所では、上昇流を形成していることが考えられ、強い上昇流によって線状降水系の降雨が維持されていたと考えられる。

 24時間積算雨量の分布

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図3(上) 2018年7月6日午前9時から7日午前9時までの24時間積算雨量。(中)7月6日午前9時からの積算雨量の時間変化(7日午前9時までの1分毎)。(下)7月6日午前9時から7日午前9時までの1分毎の降雨強度の時間変化。データは国土交通省XRAINを使用している。

 1分毎の降雨強度の時間変化

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図4 2018年7月6日18時から24時までの1分毎の降雨強度の時間変化。表示した領域内での最大の降雨強度を図の上に数値で示す。データは国土交通省XRAINを使用した。

  • 表示した領域内での最大降雨強度は、18時以降連続的に100mm/時を超えており、強い雨が長時間継続していた。
  • 強い降雨域は、北東から南西の走向をもつ線状降水系によってもたらされ、極めて局地的に強い降雨が発生していた。

 水蒸気の流れ

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図5 気象庁局地モデルによる2018年7月6日9時(日本時)から7月7日8時(日本時)までの地表付近の風(矢羽根)と,空気1kgあたりの水蒸気の質量(カラー)の1時間毎のアニメーション。長い矢羽根は5 m/s、短い矢羽根は2.5 m/sの風速を示す。等値線は標高(500 m間隔)を示す。

  • 梅雨前線に向かって南風によって運ばれた水蒸気が継続して吹き込んでいた
  • 紀伊水道や豊後水道を通って多くの水蒸気が運ばれていた

  3時間積算雨量分布の形状に基づく線状降水帯の検出

線状降水帯の学術的定義は確定していない。本解析では、先行研究である津口・加藤(2014)の研究成果に基づき、3時間積算雨量分布で、50mm以上の領域が線状になっているかどうかに基づいて線状降水帯かどうかの判断を行った。北東から南西に延びる長さ170 km、幅50kmの線状の雨量分布が広島県を中心に観測されていた。長さは幅の3倍以上となっており、津口・加藤(2014)の定義によると「線状降水帯」ということができる。

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図6 3時間積算雨量(7月6日18時から21時)と50mm以上の雨量分布の広がり

(参考文献)
津口裕茂・加藤輝之, 2014: 集中豪雨事例の客観的な抽出とその特性・特徴に関する統計解析, 天気, 61, 455-469.

 謝辞

国土交通省XバンドMPレーダのデータは、国家基幹技術「海洋地球観測探査システム」:データ統合・解析システム(DIAS)の枠組みの下で収集・提供されたものです。また国土交通省XRAIN雨量データは河川情報センターより、気象庁レーダデータおよび局地モデルデータは気象業務支援センターより配信されたものです。