国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2021年8月11日からの西日本を中心とする大雨の積算雨量分布

更新履歴

  • 令和3年8月19日19:20 時間・緯度断面(中部地方)を追加しました.
  • 令和3年8月19日10:45 中部地方の積算雨量の動画を追加しました.
  • 令和3年8月16日15:15 初版

連絡先 

  • 水・土砂防災研究部門 前坂

本サイトの短縮URL → https://mizu.bosai.go.jp/key/20210811rain

概要

2021年8月11日から西日本を中心に前線が長時間停滞し,各地で水害や土砂災害が発生しました.この大雨に関して,8月15日までの雨の振り方,特に降雨強度の分布と積算雨量の時間変化を国土交通省XRAINの観測データを用いて解析しました.なお,本報は速報であるため,内容が変更される場合があります.

降雨強度・積算雨量の時間変化

降雨強度と積算雨量の分布の時間変化を示した動画を YouTube に公開しました.

 九州地方の積算雨量(2021年8月10日21時から15日15時)

https://www.youtube.com/watch?v=g12rc9Lo_co
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2021年8月10日の夜から九州地方では前線が停滞し,降雨が長時間継続しました.九州の北西部では,広い範囲で降り始めからの積算雨量が 500 mm を越え,各地で水害,土砂災害が発生しました.降雨期間中,半日程度の周期でメソスケール(大きさ100 kmから200 km程度)の低気圧が通過し,その周辺で降雨が強化されている様子が見られます.

 中国・四国地方の積算雨量(2021年8月11日03時から15日15時)

https://www.youtube.com/watch?v=4UUKH5VW8K4
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2021年8月11日から中国・四国地方では前線が停滞し,降雨が長時間継続しました.降り始めからの積算雨量が300 mmを越える領域が,山口県東部から広島県西部,高知県東部に見られ,各地で水害,土砂災害が発生しました.降雨期間中,半日程度の周期でメソスケール(大きさ100 kmから200 km程度)の低気圧が通過し,その周辺で降雨が強化されている様子が見られます.また,高知県東部の山地で見られる積算雨量のピークは,地形により形成されたと考えられる線状の降水帯によりもたらされました.

 中部地方の積算雨量(2021年8月12日09時から15日21時)

https://www.youtube.com/watch?v=iprfIr-k8xc
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2021年8月12日の昼頃から中部地方では前線が停滞し,降雨が長時間継続しました.山岳部周辺を中心に降り始めからの積算雨量が300 mmを越え,各地で水害,土砂災害が発生しました.特に,近畿地方から伸びる線状の降水帯と山地が重なるところで降雨が強化されています.また,岐阜県の岐阜・西濃地域や静岡県の遠州北・中部北地域においても大きな積算雨量が解析されていますが,これらは線状降水帯によるものです.
山岳などによりレーダービームが遮蔽され,雨量が過小評価されている箇所(特に積算雨量が周囲に比べて小さくなっているくさび形の領域)や,レーダービームが山岳で反射され,雨量が過大評価されているところもあり,そのような場所は実際の雨量と大きく異なる場合があり,注意が必要です.

時間・緯度断面

 九州地方

図は東経130.5度から130.6度(福岡県久留米市付近),北緯31度から34度(九州の南北が収まる範囲)の南北に長い短冊状の降雨強度の分布を30分毎に並べた時系列を示しています.マゼンダ色の破線は前線に相当する降雨帯で,今回の大雨の多くはこの降雨帯によりもたらされました.この前線帯は半日程度の周期で,南北方向に振動していますが,前線が北に上がるタイミングでメソスケール低気圧(普通の温帯低気圧よりも小さな低気圧;今回は100 km〜 200 km程度の大きさ)が通過しています.このメソスケールの低気圧の通過するタイミングで九州北部では強い雨が降っています.これは昨年の熊本豪雨でも見られた特徴です.
前線本体の南側でも,降雨帯(黒破線)がいくつか見られますが,今回はそれほど強くありません.これらの中で,南北に移動していないものは地形性の(元祖)線状降水帯です.特に,14日の9時頃から,北緯33度付近で見られる南北移動の小さい黒破線はよく知られた地形性の線状降水帯で,「諫早ライン」と呼ばれています,今回の大雨では,前線本体の雨に比べれば総降雨量に占める割合は大きくありませんが,福岡県南部の降雨量の増加に寄与しています.

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降雨強度分布の時間・緯度断面.東経130.5度から130.6度,北緯31度から34度の南北に長い短冊状の降雨強度の分布を30分毎に並べて示している.横軸は時間(日本標準時),縦軸は緯度.カラースケールは降雨強度(国土交通省XRAIN).マゼンダ色の破線は前線本体に相当する降雨帯,黒破線はその他の降雨帯を示す(目視による識別).

 中部地方

図は中部地方の風上側にあたる,東経136.1度から136.2度(琵琶湖東部に相当),北緯34度から37度(三重県尾鷲市から能登半島西沖)の南北に長い短冊状の降雨強度の分布を30分毎に並べた時系列を示しています.緑色の破線は前線の降雨帯の北側の比較的雨の強い箇所を示してます.九州地方と比べて,前線の降雨帯の北側では降雨はあまり強くありません.黒破線は緑色の破線の南側に現れた降雨帯を示していますが,13日の16時頃から17日の03時頃までと,14日の09時頃から15日の03時頃までの期間に,北緯35度付近で南北移動の小さい降雨帯が停滞しており,この期間中に30 mm/hour を越える降雨強度が見られます.これらは近畿地方から伸びる線状の降雨帯が長時間停滞したものであり,この長い降雨帯の東側の山地で大きな積算雨量が解析されています(中部地方の積算雨量の動画をご覧ください).

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降雨強度分布の時間・緯度断面.東経136.1度から136.2度,北緯34度から37度の南北に長い短冊状の降雨強度の分布を30分毎に並べて示している.横軸は時間(日本標準時),縦軸は緯度.カラースケールは降雨強度(国土交通省XRAIN).緑色の破線は前線の降雨帯の北側の比較的雨の強い箇所を,黒破線はその他の降雨帯を示す(目視による識別).