更新履歴
- 令和4年7月14日 初版
連絡先
- 水・土砂防災研究部門 前坂・鈴木
本サイトの短縮URL → https://mizu.bosai.go.jp/key/20220712hatoyama
概要
2022年7月12日の午後,埼玉県で大雨が発生し,鳩山町では20時00分(日本標準時,24時間制,以下同じ)に前1時間積算雨量が110 mm,前3時間積算雨量が 263.5 mm という記録的な降水量が観測されました(気象庁アメダスによる観測).国土交通省XRAINの観測データを用いて,同日12時から翌日03時までの降雨強度・積算雨量を解析したところ,埼玉県周辺ではメソスケール(水平スケールが数十〜数百キロメートル程度)の低気圧が発生しており,その中心部付近で降雨が停滞したため,鳩山町周辺の限られた地域に降雨が集中しました.
降雨強度・積算雨量の時間変化
降雨強度と積算雨量の分布の時間変化を示した動画を YouTube に公開しました.
埼玉県周辺の積算雨量(2022年7月12日12時から13日03時)
以下のURLから動画をご覧ください.
https://youtu.be/vedrbmRltLw
12日12時から16時頃
埼玉県付近の地上付近では南東風が卓越しており,その少し上空の高度 1.5 km 及び 3 km 付近ではそれぞれ南風,南西風が卓越していました(気象庁メソ数値予報モデルの結果より).この上空の風向に対応して,降水域は南/南西から北/北東方向に移動していました.
12日16時から21時頃
埼玉県の北西の群馬県の方向から南東進する降雨域が現れ始めると,降雨域は埼玉県の中央部を中心に反時計回りに回転するように移動し始め,その中心付近の鳩山町付近では,それまで北東進していた降雨域が停滞し始め(17時頃から),鳩山町の周辺でのみ積算雨量が増大していく様子が見られます.
12日21時以降
メソスケール(水平スケールが数十〜数百キロメートル程度)の低気圧に特徴的な降雨域(回転しながら移動する小規模な温暖前線・寒冷前線に伴う降雨域)が明瞭に見られ,そのメソスケールの低気圧は時速10 km程度の速さで東進していきました.
降雨域の停滞について
一般的に,北半球の低気圧の東側では降水域は北進し,西側では南進する傾向にありますが,中心付近では南北方向の移動速度が小さくなり,そのため積算雨量が大きくなることがあります.本事例では低気圧の移動速度も遅かったため,これが積算雨量の増大に貢献したと考えられますが,積乱雲スケールでの停滞メカニズムに関しては,より詳細な解析が必要です.
上空の渦位分布
下の図は,13日午前3時(日本標準時)における高さ約 11 km 付近の「渦位」と呼ばれる値を図示したものです(単位はPVU, 気象庁GPVから作成).「渦位」は気象学で使われる量の1つで,渦の強さや上空の寒気に関連した量です.天気予報で「上空には寒気を伴った低気圧があり,雷や突風に注意して下さい」と言われるときは,多くの場合,上空に渦位の大きな空気があります.図に見られるように,12日の夜から13日の朝方にかけては,日本列島の中程では南北にかかる細長い高渦位の空気が存在しており,ごくゆっくりと西から東へ移動していました.地上付近の低気圧の形成には,このような上空の空気の性質も影響を与えていると推察されます.
渦位についての詳しい説明は,小倉義光著「総観気象学入門」などにあります.
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