2023年7月10日の大雨による土砂流出推定範囲 -福岡県久留米市周辺-
更新履歴
2023年8月8日 初版
担当者
水・土砂防災研究部門 秋田 寛己、飯塚 聡
概要
2023年7月10日の大雨により、福岡県久留米市田主丸町竹野地区では報道のとおり土石流が発生し(写真)住宅7棟が損壊し人的被害がありました。土砂災害のあった久留米市周辺を対象に、災害前後の光学衛星データを用いて計算したNDVI(正規化植生指数)差分値から、土砂流出推定範囲の抽出を試みました。
解析結果として、図1に黒矢印で示した田主丸町竹野地区およびその東側の石垣地区周辺などには、斜面崩壊や土石流によると思われる土砂流出箇所が山地部で多数見られました。また、面積規模の大きな土砂流出が少なくとも8箇所以上で見られることなどもわかってきました。
なお、防災クロスビュー(令和5年7月7日からの大雨)に広域的な抽出結果を公開していますのでご覧下さい。
(https://xview.bosai.go.jp/view/index.html?appid=f63aee300011493cab2dc074c2334d2d)
NDVI差分値を用いた土砂流出範囲の推定手法について
近年は斜面崩壊や土石流といった土砂移動現象による土砂災害が広域的に発生するケースが見られ、災害後の応急復旧のためにも土砂流出の発生場所とその範囲を把握することが必要です。このような応急対応に資する情報発信を目的とし、水・土砂防災研究部門では、土砂流出推定範囲を抽出する手法の開発に取り組んでいます。
以下の光学衛星データを使用し、NDVI差分値に閾値を定めて二値化画像を作成し、斜面傾斜角により土砂流出の推定範囲を抽出しました。
-使用した光学衛星データ-
Planet Dove(分解能3m、L3B)
災害前:2023年6月20日AM10:08(JST)撮影、災害後:2023年7月29日AM10:43(JST)撮影
※GISアプリケーションは、ArcGIS Pro 3.1.1(ESRI JAPAN)を使用。
図2に災害前後の光学衛星データから作成したNDVI差分画像を示します。対象領域は、報道 1) による土砂災害発生地域を広域にカバーするように設定しました。なお、使用した衛星データは分解能3mであるため、面積9m2(3m×3m)以下の変化は捉えることができません。
斜面崩壊や土石流などの土砂移動現象により裸地化した範囲はNDVI差分値が大きくなり、白色であらわれます。
1)NHK NEWS WEB
次にNDVI差分値に閾値を定め、土砂流出の可能性のある範囲を抽出します。
閾値は0.25以上を適用し、土砂流出の可能性のある範囲を抽出しました。加えて、国土地理院10mDEM 2) を使用して対象領域での斜面傾斜角を整理し、既存の調査結果など 3)4) から、斜面傾斜角15度以上を土砂流出推定範囲と判断しています。
2)基盤地図情報(国土地理院)
3)砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説(国土技術政策総合研究所.2016)
4)土石流・流木対策指針解説等(林野庁森林整備部.2019)