国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2020年7月3〜4日熊本県西部の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲抽出の試み

2020年7月3〜4日熊本県西部の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲抽出の試み


更新履歴

 2020年9月16日 初版

本件に関する連絡先

 水・土砂防災研究部門 秋田、若月

 概要

 近年は土石流や斜面崩壊といった斜面変動による土砂災害が広域的に発生するケースが見られており、救助活動や早期の復旧のために斜面変動範囲を即時に把握することが求められます。防災科学技術研究所では、斜面変動範囲の早期把握を目指し、災害前後の衛星画像から作成したNDVI(正規化植生指数)差分画像を用いた斜面変動範囲の抽出を試みるとともに、災害のあった熊本県芦北町・津奈木町付近で現地調査を行ないました。結果として、現地で確認した土石流の約77 %(13地点中10地点)が、試作した斜面変動範囲図で抽出されており、その範囲もある程度抽出できることが明らかになりました。
〜抽出手法の詳細は、ページ下部のPDFファイルをご確認下さい〜

 現地調査日:2020年8月3日〜7日
 調査員:秋田寛己・若月 強・檀上 徹 (水・土砂防災研究部門)
     佐藤昌人 (マルチハザードリスク評価研究部門)

 NDVI差分画像を用いた斜面変動の抽出の試み

 抽出の流れを図1に示します。NDVI差分値と斜面勾配のそれぞれについて、閾値を定めることで斜面変動範囲を抽出しました。そして、抽出結果と現地状況との比較を行ないました。

図1.png

 -使用した衛星画像-
  災害前:Sentinel-2/MSI(2020年6月10日撮影:分解能10 m、L2A)
  災害後:Sentinel-2/MSI(2020年8月19日撮影:分解能10 m、L2A)
   ※GIS解析作業には、ArcGIS Pro 2.6(ESRI JAPAN)を使用。

 図2に作成した災害前後の衛星画像のNDVI差分画像を示します。斜面変動などにより裸地化した範囲はNDVI差分値が大きくなり、白色で示されています。調査した土石流(★印)の付近には、土石流により土砂が移動したと推察される白色の帯状の範囲が存在しています。なお、使用している衛星画像は分解能10 mであるため、面積100 m2(10 m ×10 m)以下の変化は捉えることができません。図2には市街地や水域などにも白色が散見され、斜面変動が発生した範囲と市街地・植生・水域のNDVI差分値の境界が不明瞭であるため、発生範囲の抽出が難しい状態です。そこで、NDVI差分値と地形(斜面勾配)に閾値を定めることで、斜面変動範囲の抽出を試みました。

図2.png

 斜面変動範囲のNDVI差分値は市街地・植生・水域のNDVI差分値とは異なる傾向を示していました(詳細はPDFファイルの4章参照)。そこで、NDVI差分値の下位25%確率値0.3を閾値とすることで、それ以上の値を示す範囲は斜面変動範囲にある程度相当すると考えました。一方、平地部でのノイズを取り除くため、国土地理院10 m DEMを用いて、一般に土石流流下区間の下限値といわれる斜面勾配10度を地形の閾値としました。これら2つの閾値を用いて、斜面変動範囲を抽出しました(図3図4)。

図3.png
図4.png

 図3の画像には河道内の裸地や雲がノイズとして残っているため、マスクをかけてセルを除去しました。河道内は河道のラインに両側100 mバッファを設け、その範囲に入るセルを除去しました。また、現地で確認した土石流(13地点)のうち、二値化画像で抽出できた地点の最小面積を調べたところ、地点3の6,100 m2になりました。このことから、面積6,100 m2以上を示す抽出範囲は斜面変動である可能性が高いのですが、6,100 m2未満の範囲は斜面変動では無い可能性もあります。そこで、二値化画像から面積6,100 m2未満の範囲を除去しました(図5)。この作業により、一般に崩壊面積が小さい崩壊深が2〜3 m以下の表層崩壊などの規模の小さな斜面崩壊や土石流のほとんどが検出対象外になっています。
 抽出結果としては、現地で確認した土石流の13地点中10地点の約77 %が抽出されました。また、確認地点以外にも斜面変動が発生した可能性のある範囲が広域的に存在していることがわかります。これらのほとんどが、山地内の急勾配斜面や流路に位置しており、斜面崩壊や土石流であると推定されます。

図5_1.png

 まとめ

  1. 斜面変動範囲は、土砂が露出して裸地化するため、市街地・植生・水域と比べてNDVI差分値が大きい傾向を示します。この特徴から、NDVI差分値に閾値を設定することで、斜面変動範囲を抽出できると考えられました。
  2. NDVI差分値の閾値に加えて、斜面勾配の閾値(10°未満を除去)の設定と、各ノイズ(河道内の裸地、雲、小面積裸地)の除去を行なうことにより、斜面変動範囲図を試作しました。なお、面積6,100 m2未満の抽出範囲を小面積裸地として除去したため、表層崩壊や規模の小さな土石流は検出対象外です。
  3. 現地で確認した土石流の約77 %(13地点中10地点)が、試作した斜面変動範囲図で抽出されており、その範囲もある程度抽出することができました。
  4. 今回用いた衛星画像は分解能が低いため、規模が小さい斜面変動の抽出は困難であり、また土石流の流走部のように細長い形状の場所は、上空が林冠で覆われていることが影響し、抽出漏れがあったと考えられました。

 今後、分解能が高い衛星画像が使用できれば、表層崩壊などの規模の小さな斜面変動を捉えることができる可能性があります。これからもデータ蓄積や手法改良を行ない、災害直後の情報発信が可能となるよう目指していきます。

 詳細はPDFファイルをご確認下さい

ファイルはこちら
2020Kumamoto_v200916.pdf(61)


2020年7月3〜4日熊本県西部の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲抽出の試み(短縮URL↓)
https://mizu.bosai.go.jp/key/2020Kumamoto