国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2021年7月3日静岡県熱海市周辺の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定

2021年7月3日静岡県熱海市周辺の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定


更新履歴

 2021年7月30日 初版
 2021年8月18日 第二版 PlanetDove衛星画像の解析結果を追記

本件に関する連絡先

 水・土砂防災研究部門 秋田、若月

 概要

 近年は土石流や斜面崩壊といった斜面変動による土砂災害が広域かつ同時多発的に発生するケースが見られており、救助活動や早期復旧のために斜面変動の範囲を早期に把握することが求められます。防災科学技術研究所では、斜面変動範囲を抽出する手法の開発に取り組んでいます。その中でもまずは、斜面変動の可能性のある全ての範囲を抽出する手法を検討しています。
 2021年7月豪雨で災害のあった静岡県熱海市周辺を対象に、災害前後の衛星画像から作成したNDVI(正規化植生指数)差分画像を用い、斜面変動の可能性のある範囲の広域的な抽出を試みました。結果として、熱海市伊豆山地区では明瞭な土石流の流下形状が抽出されました。その他の場所については、隣接渓流などでも小規模な斜面変動は散見されるものの、土石流の流下形状を呈した範囲は今回の解析上ではほとんど確認されませんでした。

 NDVI差分画像を用いた斜面変動範囲の推定

 抽出の流れを図1に示します。NDVI差分値に閾値を定めて二値化画像を作成し、斜面勾配などで絞り込み、斜面変動の可能性がある範囲を抽出しました。

図1.png

 -使用した衛星画像-
  Sentinel-2/MSI(分解能10m、L2A)
   災害前:2021年5月2日撮影、災害後:2021年7月21日撮影

  Planet Dove(分解能3m、L3B)
   災害前:2021年6月9日撮影、災害後:2021年7月19日撮影
    ※GIS解析作業には、ArcGIS Pro 2.8.1(ESRI JAPAN)を使用。

 図2に災害前後の衛星画像から作成したNDVI差分画像を示します。解析領域は、半減期72時間実効雨量の稀さが100年以上を示している領域(防災クロスビュー)を参考とし、広域に設定しました。黒破線は災害前後の衛星画像から判読した雲範囲であり、斜面変動の抽出除外の範囲です。なお、Sentinel-2衛星画像は分解能10mであるため、面積100m2(10m×10m)以下の変化は捉えることができません。
 斜面変動などにより裸地化した範囲はNDVI差分値が大きくなり、白色であらわれます。熱海市伊豆山地区の土石流場所(黄色三角付近)は、白色の帯状の範囲が見られます。

図2_v3.png

 次にNDVI差分値に閾値を定め、斜面変動の可能性のある範囲を抽出します。図3にNDVI差分値の閾値による二値化画像を示します。ここでは雲範囲の少なかったSentinel-2衛星画像を使用しています。
 閾値は2020年7月の熊本県西部での解析で求めた0.3以上を適用したところ、斜面変動の可能性のある範囲がある程度抽出できていました。なお、斜面勾配10度未満の範囲は、国土地理院5mDEM(10mセルにリサンプリング処理)の標高値を使用し求めました。斜面勾配10度未満の範囲は、斜面変動の可能性が低いと判断します。

図3.png

 図3の二値化画像には小規模な裸地がノイズとして残ります。これらは斜面変動ではない可能性もあるため、実際に斜面変動が抽出できている場所を調べ、その最小面積未満の範囲を除去します。熱海市伊豆山地区で撮影された災害前後の空中写真をWeb上で確認し、抽出手法により斜面変動の可能性のある範囲とほぼ一致する実際の斜面変動の場所(左下写真:白破線)を調べ、その場所(図4:黒矢印が指す赤枠)の面積を計算したところ、面積1,000m2が得られました。そこで、本解析では、面積1,000m2未満の小規模裸地を除去します。

図4.png

 図5に斜面変動範囲図を示します。これは図3の二値化画像から雲範囲、斜面勾配10度未満、面積1,000m2未満の小規模裸地を除去したものです。
 抽出結果としては、熱海市伊豆山地区では土石流の流下形状が明瞭でした。その他の場所では、隣接渓流などで小規模な斜面変動は散見されるものの、土石流の流下形状を呈した範囲は今回の解析上ではほとんど確認されませんでした。

図5.png

 まとめ

  1. 2020年7月の熊本県西部での解析で求めたNDVI差分値の閾値を本解析へ適用したところ、斜面変動の可能性のある範囲がある程度抽出できていました。Sentinel-2衛星の画像を抽出手法に使用する場合、閾値は同程度の値が適用できる可能性があり、今後もデータを蓄積していきます。
  2. 熱海市伊豆山地区では、土石流の流下形状が明瞭でした。
  3. その他の場所では、隣接渓流などで小規模な斜面変動は散見されるものの、土石流の流下形状を呈した範囲は今回の解析上ではほとんど確認されませんでした。

 本解析の小規模裸地の設定などは現地調査から検討したものではないため、抽出した範囲を今後現地で確認することにより、抽出手法の検証・改良を加えていきたいと考えます。


2021年7月3日静岡県熱海市周辺の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定(短縮URL↓)
https://mizu.bosai.go.jp/key/2021Atami