国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2023年9月5日の豪雨による土砂流出推定範囲 -ギリシャ(Greece)中部のテッサリア(Thessaly)地域周辺-

2023年9月5日の豪雨による土砂流出推定範囲 -ギリシャ(Greece)中部のテッサリア(Thessaly)地域周辺-


更新履歴

 2023年 9月11日 作成
 2023年10月18日 公開
 

担当者

 水・土砂防災研究部門 秋田寛己、飯塚聡

 概要

 2023年9月5日(現地時間)、地中海熱帯低気圧「ダニエル(Daniel)」に伴い24時間で数百ミリに達する大雨が降ったギリシャ(Greece)では浸水・冠水・土砂災害が発生しました。防災科学技術研究所では、早期復旧の支援につながる情報プロダクツの創出に向けて、山地災害発生後に現地調査では困難な広域的な概況把握を早期に行うことを目的に、衛星データを使用して斜面変動(土砂流出の発生)範囲を抽出する手法の開発に取り組んでいます。今回、壊滅的な被害を受けたギリシャ(Greece)中部のテッサリア(Thessaly)地域周辺の約22,000km2を対象に、豪雨前後の光学衛星データを用いて土砂流出推定範囲の抽出を試みました。その結果、プラスティラ(Plastiras)湖西側のアグラファ(Agrafa)山周辺など約2,800km2(神奈川県全域の面積に相当)の広範囲において、斜面崩壊の可能性のある箇所が400以上、抽出されました(図1)。
 なお、今回の抽出作業は発災後1週間以内の比較的早期に完了できました。

図1_1.png


 NDVI差分値を用いた土砂流出範囲の推定手法について

 近年は斜面崩壊や土石流といった土砂移動現象による土砂災害が広域的に発生するケースが見られ、災害後の応急復旧のためにも土砂流出の発生場所とその範囲を把握することが必要です。このような応急復旧に資する情報発信を目的とし、水・土砂防災研究部門では、土砂流出推定範囲を抽出する手法の開発に取り組んでいます。
 以下の光学衛星データを使用し、NDVI差分値に閾値を定めて二値化画像を作成し、斜面傾斜角により土砂流出の推定範囲を抽出しました。
 
 -使用した光学衛星データ-
  Sentinel-2/MSI(空間分解能10m、L2A)
  豪雨前:2023年8月21日AM09:29(UTC)撮影、豪雨後:2023年9月10日AM09:29(UTC)撮影
   ※GISアプリケーションは、ArcGIS Pro 3.1.1(ESRI JAPAN)を使用。

 図2図3に豪雨前後の光学衛星データを示します。図3の豪雨後には、テッサリア(Thessaly)地域のラリッサ(Larissa)などの市街地で濁水が広域に確認できます。さらに図4に豪雨前後の光学衛星データから作成したNDVI差分画像を示します。対象領域は、濁水エリアを中心に西側の山岳地域までをカバーするように設定しました。なお、使用した衛星データは空間分解能10mであるため、面積100m2(10m×10m)以下の変化は捉えることができません。
 濁水などの水域ならびに斜面崩壊や土石流などの土砂移動現象により裸地化した範囲はNDVI差分値が大きくなり、白色であらわれます。

図2.png
図3_1.png
図4_1.png

 次にNDVI差分値に閾値を定め、土砂流出の可能性のある範囲を抽出します。
 閾値は0.25以上を適用し、土砂流出の可能性のある範囲を抽出しました。加えて、地球地図全球版30mDEM 2) を使用して対象領域での斜面傾斜角を整理し、既存の調査結果など 3)4) から、斜面傾斜角10度以上を土砂流出推定範囲と判断しています。なお、雲がかかった範囲は解析対象から除外しています。
 2)地球地図全球版(国土地理院)
 3)砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説(国土技術政策総合研究所.2016)
 4)土石流・流木対策指針解説等(林野庁森林整備部.2019)

(短縮URL)
https://mizu.bosai.go.jp/key/2023Greece