国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2022年7月15〜16日の宮城県大崎市周辺の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定

2022年7月15〜16日の宮城県大崎市周辺の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定


更新履歴

 2022年8月5日 初版
 

本件に関する連絡先

 水・土砂防災研究部門 秋田・若月

 概要

 近年は土石流や斜面崩壊といった斜面変動による土砂災害が広域かつ同時多発的に発生するケースが見られており、救助活動や早期復旧のために斜面変動の範囲を早期に把握することが求められます。防災科学技術研究所では、斜面変動範囲を抽出する手法の開発に取り組んでいます。
 2022年7月15〜16日の大雨で災害のあった宮城県大崎市周辺を対象に、災害前後の衛星画像から作成したNDVI(正規化植生指数)差分画像を用い、斜面変動範囲の抽出を試みました。その結果、大崎市岩出山や毘沙門付近の道路沿いの法面などに小規模な斜面変動が見られ、災害後の航空写真から確認した崩壊地とも概ね一致していました。

 NDVI差分画像を用いた斜面変動範囲の推定

 抽出の流れを図1に示します。NDVI差分値に閾値を定めて二値化画像を作成し、斜面勾配などで絞り込み、斜面変動の可能性がある範囲を抽出しました。

図1.png

 -使用した衛星画像-
  Sentinel-2/MSI(分解能10m、L2A)
   災害前:2021年6月11日撮影
   災害後:2022年7月31日撮影
    ※GIS解析作業には、ArcGIS Pro 2.9.3(ESRI JAPAN)を使用。

 図2に災害前後の衛星画像から作成したNDVI差分画像を示します。解析領域は、3時間積算雨量の稀さが50〜100年を示していた領域(水・土砂HP:2022年7月16日の宮城県での大雨)を参考に設定しました。なお、使用している衛星画像は分解能10mであるため、面積100m2(10m×10m)以下の変化は捉えることができません。
 斜面変動などにより裸地化した範囲はNDVI差分値が大きくなり、白色であらわれます。

図2.png

 次にNDVI差分値に閾値を定め、斜面変動の可能性のある範囲を抽出します。図3にNDVI差分値の閾値による二値化画像を示します。
 閾値は2020年7月の熊本県西部での解析1)で求めた0.3以上を適用したところ、斜面変動の可能性のある範囲がいくつか抽出されました。なお、斜面勾配10度未満の範囲は、国土地理院10mDEMの標高値を使用し求めました。斜面勾配10度未満の範囲は、斜面変動の可能性が低いと判断します。
 1)2020年7月3〜4日熊本県西部の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲抽出の試み

図3.png
 
 図4に完成した斜面変動範囲図を示します。これは図3の二値化画像から斜面勾配10度未満、面積700m2未満の小規模裸地を除去したものです。なお、700m2は広島市西区の土石流災害の解析事例2)を参考に設定しました。
 黒矢印の大崎市岩出山や毘沙門付近の道路沿いの法面などに小規模な斜面変動が見られ、これらは災害後の航空写真3)から確認した崩壊地とも概ね一致していました。その他の場所にも斜面変動が散在していると考えられます。ただし、丸破線の斜面変動範囲は、航空写真で確認できていないですが、斜面変動ではなく造成地や伐採跡地などであると考えられます。
 2)2021年8月11〜15日の広島県広島市の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定
 3)2022年7月大雨災害後の航空写真(株式会社パスコHP公開)

図4.png

 まとめ

 2022年7月15〜16日に宮城県大崎市周辺で発生した土砂災害に対して、NDVI差分画像を用いた斜面変動範囲の抽出手法を適用したところ、大崎市岩出山や毘沙門付近の道路沿いの法面などに小規模な斜面変動が見られ、災害後の航空写真から確認した崩壊地とも概ね一致していました。
 なお、本解析は現地調査を行ったものではないため、抽出した斜面変動を今後現地で確認することにより、抽出手法の検証・改良を加えていきたいと考えます。


2022年7月15〜16日の宮城県大崎市周辺の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定(短縮URL↓)
https://mizu.bosai.go.jp/key/2022Miyagi