国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門
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2021年8月9〜10日の青森県下北半島の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定

2021年8月9〜10日の青森県下北半島の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定


更新履歴

 2021年9月3日 初版
 

本件に関する連絡先

 水・土砂防災研究部門 秋田・若月(斜面変動)、三隅(気象状況)

 概要

 近年は土石流や斜面崩壊といった斜面変動による土砂災害が広域かつ同時多発的に発生するケースが見られており、救助活動や早期復旧のために斜面変動の範囲を早期に把握することが求められます。防災科学技術研究所では、斜面変動範囲を抽出する手法の開発に取り組んでいます。
 2021年8月9日〜10日における低気圧の通過による豪雨で災害のあった青森県下北半島のむつ市及び風間浦村周辺を対象に、災害前後の衛星画像から作成したNDVI(正規化植生指数)差分画像を用い、斜面変動範囲の抽出を試みました。結果として、小赤川や大赤川の流域に多数の斜面変動が発生したと考えられました。さらに、風間浦村の海岸沿いの道路脇斜面にも、複数の斜面変動が分布していると考えられます。

 NDVI差分画像を用いた斜面変動範囲の推定

 抽出の流れを図1に示します。NDVI差分値に閾値を定めて二値化画像を作成し、斜面勾配などで絞り込み、斜面変動の可能性がある範囲を抽出します。

図1.png

 -使用した衛星画像-
  Sentinel-2/MSI(分解能10m、L2A)
   災害前:2021年6月1日撮影
   災害後:2021年8月20日撮影
    ※GIS解析作業には、ArcGIS Pro 2.8.1(ESRI JAPAN)を使用。

 図2に災害前後の衛星画像から作成したNDVI差分画像を示します。解析領域は、半減期72時間実効雨量の稀さが10〜100年を示していた領域(防災クロスビュー)を参考とし、広域に設定しました。黒破線は災害前後の衛星画像から判読した雲範囲であり、斜面変動の抽出除外の範囲です。なお、使用している衛星画像は分解能10mであるため、面積100m2(10m×10m)以下の変化は捉えることができません。
 斜面変動などにより裸地化した範囲はNDVI差分値が大きくなり、白色であらわれます。ここでは、むつ市と風間浦村の行政界付近などに筋状の土砂移動らしき痕跡が多数読み取れます。

図2.png

 次にNDVI差分値に閾値を定め、斜面変動の可能性のある範囲を抽出します。図3にNDVI差分値の閾値による二値化画像を示します。
 閾値は2020年7月の熊本県西部での解析事例1)で求めた0.3以上を適用したところ、斜面変動の可能性のある範囲が多数抽出されました。なお、斜面勾配10度未満の範囲は、国土地理院10mDEMの標高値を使用し求めました。斜面勾配10度未満の範囲は、斜面変動の可能性が低いと判断します。
 1)2020年7月3〜4日熊本県西部の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲抽出の試み

図3.png
 
 図4に完成した斜面変動範囲図を示します。これは図3の二値化画像から雲範囲、斜面勾配10度未満、面積1,000m2未満の小規模裸地を除去したものです。なお、1,000m2は2021年7月の熱海市土石流災害の解析事例2)を参考に設定しました。
 抽出結果としては、小赤川や大赤川の流域に斜面変動が特に多く分布している傾向が見られました。さらに、風間浦村の焼山沢周辺の渓流や海岸沿いの道路脇斜面にも、複数の斜面変動が分布していることが読み取れます。
 2)2021年7月3日静岡県熱海市周辺の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定

図4.png

 気象の状況(参考)

地上天気図

天気図.jpg
図5 地上天気図(気象庁作成、日時を加筆)。令和3年台風第9号から変わった温帯低気圧が、青森県地方を通過しました。

雨雲の移動(8/9 9:00-8/10 15:00)

JMA_radar.gif
図6 8月9日夕方から深夜にかけて、線状の雨雲が下北半島に停滞しています(データ:気象庁5分毎1kmメッシュ全国合成レーダーGPV、背景は国土地理院の淡色地図)。

降水量(8/9 12:00-8/10 12:00)

2021081012JST_R24H.png
図7 8月10日12時における前24時間雨量。300mmを超える記録的な大雨が、下北半島北部の非常に狭い範囲に記録されました(データ:国土交通省XRAIN)。

 まとめ

  1. 2021年8月9〜10日の低気圧の通過に伴う青森県むつ市及び風間浦村周辺の土砂災害に対して、NDVI差分画像を用いた斜面変動範囲の抽出手法を適用したところ、斜面変動と考えられる範囲が多数抽出されました。
  2. 斜面変動は、小赤川や大赤川の流域に特に多く分布していると考えられます。
  3. また、風間浦村の焼山沢周辺の渓流や海岸沿いの道路脇斜面にも、複数の斜面変動が分布していると考えられます。

 本解析は現地調査を行ったものではないため、抽出した斜面変動を今後現地で確認することにより、抽出手法の検証・改良を加えていきたいと考えます。


2021年8月9〜10日の青森県下北半島の土砂災害における衛星画像からの斜面変動範囲の推定(短縮URL↓)
https://mizu.bosai.go.jp/key/2021Aomori